物語の主人公は、プロ野球12球団のファンクラブに入り、全国のスタジアムを渡り歩く、さすらいの“観戦人”。その主人公が第1巻の冒頭で、こんなことをつぶやく。
《野球を愛する者は誰もが胸のうちに自分だけの公認野球規則を持っている。【野球観戦日の食事は3食すべて球場内で食べる】それが俺の野球規則第3条4項だ》
このセリフ通り、毎回ひとつの球場(複数の場合も)にスポットを当て、その球場で何を食べ、どう野球と向き合うかを描いていく。
掲載球場は、第1巻が「神宮球場」「西武ドーム(メットライフドーム)」「マツダスタジアム」「東京ドーム」、そして在りし日の「藤井寺球場」。2巻が「Koboパーク宮城」「札幌ドーム」「ZOZOマリンスタジアム」「ナゴヤドーム&ナゴヤ球場」。さらには「神宮→マリン」「西武ドーム→東京ドーム」のはしご観戦も描かれる。各球場での“三食”に何を選んで食べたのかは、ぜひ読んで確かめていただきたい。
それぞれ、球場の観戦場所によって購入売店を変えたり、ビールの銘柄やドリンクのチョイスを変えたりと、実に芸が細かい。作者の渡辺保裕氏は、野球漫画好きならば『ワイルドリーガー』の作者としてもおなじみ。そして過去には、料理漫画を描いた経験もあるため、球場描写、料理描写とも緻密&迫力満点。
どのスタジアムグルメも実に美味しそうで、野球そっちのけで各スタジアムグルメを食べに行きたくなってしまうほど。野球ファンとしては本末転倒かもしれないが……。
こう書くと、『孤独のグルメ』の野球版? というとらえ方をされてしまうかもしれない。だが、本作の魅力はもっと先にある。球場グルメを通して、野球の愛し方・楽しみ方、野球とともに生活する日常を描いていくのだ。そして、随所に挟み込まれる野球知識や比喩表現にこそ、作者・渡辺氏の深すぎる野球愛がにじみ出ていて、読み進めるほどにクセになる。
たとえば、西武ドームの座席配置や急勾配ぶりについて、《しかし料金の高い指定席のほうが余計に疲れるって理不尽じゃねーかとも思うが…》とつぶやく主人公。たとえば、札幌ドーム移転問題にからめて、わざわざ移転候補地の北広島の大地を歩く主人公。作者・渡辺氏もまた、北海道・北広島市を実際に取材したという。
また、女子高生カープ女子の魅力を説明するフレーズが《まさにロードンの機動力とランスの破壊力のツープラトン》だったり、後楽園ホールとプロ野球の親和性を説明するのに《ここで収録が行われている「笑点」のカラフルな絵面と、かつて後楽園球場を本拠地にしていた日拓フライヤーズの「7色のユニフォーム」の類似性には驚くばかりだ》と綴ったりと、比喩がいちいち(いい意味で)古くて、オッサン野球ファンが思わずニヤニヤしてしまう。
この作品、『アフタヌーン』誌上で連載が始まった当初は、「12球団の各ホーム球場を描いて終わり?」と思ったものだが、藤井寺球場跡地がテーマになったり、ナゴヤ球場などの2軍球場が舞台になったりと、まさに「野球のスタジアムすべて」が舞台になっていきそうな気配だ。実際、第3巻では全国各地のスタジアム遠征の様子が描かれる予定だという。
野球があるところ、ウマイめしと、夢と、ロマンがある!
そんなことを改めて感じさせてくれる、全野球ファンにオススメしたい野球漫画だ。交流戦の旅のお供にいかがだろうか。
文=オグマナオト