まずひとつは「得点が増える」という意見。クロスプレーの心配がないため、三塁にランナーがいる場合、これまで以上に「ゴロ&ゴー」のスタートが積極的にできる。結果、点が入りやすくなる、という考えだ。
ところが、事はそう単純ではない。NPBよりも一足先、2014年から「本塁クロスプレー禁止」を導入したMLBでは、その最初のシーズンに1981年以降で最低のリーグ得点数を記録してしまったのだ。
もちろん、得点の増減にからむ要因はひとつではない。だが、「クロスプレーを禁止すれば得点が増える」という意見もちょっと短絡的すぎる、と考えるに足りるデータではないだろうか。
今回の新ルールで、これまで「ブロック技術」を売りにしてきた捕手の腕の見せどころがなくなる、という意見もある。一方で、これで守備の負担が減り、これまで以上にリード面やキャッチング、打撃に専念できる、という見方もある。
今年のキャンプで話題となっているのが、巨人・阿部慎之助の捕手復帰。そもそも、阿部が捕手から一塁にコンバートした最大の理由は、捕手として衰えたからではなく、体の酷使を未然に防ぐことで打撃に専念させるため、だった。であるならば、今回のルール変更はまさに阿部が捕手に戻るには好都合だ。
また、見方を変えれば、別の新たな技術の見せ場が増える、ということでもある。具体的には「走者の走塁技術」「捕手のタッチ技術」「三塁コーチャーの判断力」「審判のジャッジメント」だ。
まず、「走者の走塁技術」。クロスプレーができず、走路も空けておかなければならないことから、基本的に捕手のタッチは「追いタッチ」となる。つまり、これまで以上にタッチをかいくぐるスライディング技術が得点増の鍵、といえる。たとえば、数々の妙技で「神スライディング」なる異名まで持つ巨人の鈴木尚広など、走塁のスペシャリストがこれまで以上に重宝されるはずだ。
一方、捕手の方でも、追いタッチでもしっかりと走者を捕まえる技術が求められることになる。
また、走者を突入させるべきかどうか、三塁コーチャーの判断力はより一層難しくなる。ランナーの足、野手の肩、捕手のタッチ技術……これらをいかに見極められるかが鍵を握る。
そして、走者・捕手がルール違反をしていないか、追いタッチはしっかりできていたか、など、審判が新ルールに対応できるかもファンはしっかり見極めなければならない。
この点に関しては、今季から本塁上でのクロスプレーで疑義が生じた場合、ビデオ判定が導入されることが既に決まっている。といっても、毎回毎回ビデオ判定に頼るわけにはいかないはずだ。そして、ビデオ判定があることでかえって揉める場合もある、というのは昨今のプロ野球でおなじみの光景だ。機械に頼る場面でこそ、審判としての威厳と説明能力が求められる、ということを各審判には改めて自覚していただきたい。
今年のキャンプでは、ここまで挙げた「走者の走塁技術」「捕手のタッチ技術」「三塁コーチャーの判断力」「審判のジャッジメント」を見直すトレーニングやミーティングが多くなるはずだ。実際、かつて侍ジャパンでも三塁コーチャーを務めた阪神の高代延博ヘッドコーチは、「投手にもスライディングの練習をさせたい」「捕手には内野手のようなタッチも練習させる」といった発言を昨秋の時点でつぶやいている。
余談だが、クロスプレーの英語表記は「cross play」(交錯する)ではなく、「close play」(閉め出す)だ。新ルールに対応できなければ、必然、優勝争いから閉め出される……という意味合いも含んでいる、というのは考えすぎか? 新ルールを制し、ペナントを制するのはどのチームなのだろうか?
文=オグマナオト(おぐま・なおと)