「すごいね。うらやましいね」。2日目の紅白戦。近畿大の3選手が起こした風は、試合後の囲み会見で全日本大学野球連盟監督会会長の善波達也氏が「選考委員」ではなく、「明治大監督」として本音を漏らすほど凄まじいものだった。
2年の中川智裕は186センチ92キロの体格「らしい」フルスイングと、「らしくない」流麗な遊撃守備を見せた。同じく2年の外野手・竹村陸は体幹を使った鋭い回転力をインパクトに集約できる長所を存分に発揮。3ラン含む3安打、5打点をマークした。
そして、秋の関西学生リーグで2本塁打をマークした1年の大型外野手・佐藤輝明=写真=は4.9メートルある坊っちゃんスタジアムの外野フェンス最上部に直接当てる二塁打を放つ。「スイングが柳田(悠岐・福岡ソフトバンク)のようだね」。この打球には普段から佐藤を見ている某球団関西地区担当スカウトもあらためて驚きの声を挙げていた。
1997年には今はなき全日本アマチュア野球王座決定戦を含む五冠を達成するなど、1990年代後半の近畿大は大学野球をけん引する存在だった。彼らを含む下級生たちが順調に成長すれば、二岡智宏(巨人逆指名2位)、宇高伸次(近鉄逆指名1位)、藤井彰人(近鉄2位)の3名が指名された1998年のようなドラフト黄金期到来も十二分に考えられる。
最速147キロを出した島内颯太郎(九州共立大)など、いわゆる「メジャー系大学リーグ」外の3年生の活躍が光った今合宿。下級生もその流れに違わず、様々な選手が選考委員たちへハングリーさをアピール。チーム内に化学反応をもたらしていた。
そんな下級生のなかで、投手陣の筆頭に挙げたいのは小川一平(東海大九州キャンパス2年=写真)。紅白戦では3イニングを投げ、最速147キロを5度マークしたストレートと、130キロ中盤の高速チェンジアップ、120キロ台スライダーに110キロ台カーブといった変化球を駆使。どんな場面でも闘志をむき出しにして、ケレン味なく腕を振る姿勢が印象に残った。
6月の全日本大学野球選手権出場時に課題とされた制球力も、「(3失点した後)一塁側に倒れる傾向を修正した」と善波会長が言うように、2イニングス目以降、劇的に改善できた。このままいけば2年後のドラフト戦線に間違いなく浮上してくるはずだ。
外野手では冨岡泰宏(神奈川大2年)が目についた。クセのないシンプルに構えから、紅白戦では6打数3安打、2四球、1盗塁と高い出塁率をマーク。迫力のなさを逆に長所としているのも面白い。また、富岡と対極にある左腕二刀流・菅田大介(奈良学園大2年)も粗さはあるが、走力・打力のポテンシャルの高さを垣間見せた。
なお、内野手で真っ先に目についたのは敦賀気比高がセンバツで初優勝したときのキャプテン、篠原涼(筑波大2年)。常に元気いっぱいで声を出し、周囲を励ます。侍ジャパンU-18代表でも主将を務めたリーダーシップは、ここでも健在だった。篠原には打撃と守備で感じたトップクラスとの差を埋め、杉谷拳士(北海道日本ハム)的な「いないと困る選手」を目指してほしい。
最後は、もし3年生だったら必ずドラフト候補に入ってくる「別格」下級生バッテリーの平内龍太(亜細亜大1年)と郡司裕也(慶應義塾大2年)を紹介しよう。
平内は紅白戦で先頭打者にこそ暴れていた制球もすぐに落ち着き、最速147キロを出して3回を3奪三振、無失点。2、3イニングス目は先頭打者に安打を許すも併殺で打ち取る「投球術」にも見るべきものがあった。5試合に登板した秋季リーグ戦の経験を生かし「パワーピッチャー」から、さらなる進化を遂げようとしている。この有望右腕の3年後が、今から楽しみだ。
また、昨年も侍ジャパン大学代表候補強化合宿に参加し、今年は「KEIO」の正捕手として確固たる地位を築いている郡司は、今合宿でも安定感あふれる常時1.9秒台の二塁送球と巧みなリードを披露。さらには50メートル走で5秒9を計測した。秋季リーグで不振だったバッティングも紅白戦で6打数3安打、1打点。走攻守すべてに能力の高さを見せつけた。
郡司にはまずは吉田高彰(上武大3年)との一騎打ちになるであろう2018年の侍ジャパン大学代表の正捕手争いを通じてさらなる高みを目指し、最終的には2年後、大学のみならずアマチュア球界を代表する捕手になっていることを切に願う。