甲子園のあとU-18侍ジャパン代表に選出され、台湾で行われたアジア選手権に臨んだ。U-15、U-18と2世代続けて選ばれていたのは、この藤平だけだった。
ただ、U-18アジア選手権では横浜で経験した「敗戦」とは別の意味での悔しさを体験した。「投げられない」現実だ。登板は準決勝でのわずか2球のみ。小枝守監督からの信頼度が高ければ、もっと多くのイニングを任されていたはずだ。
それでも、同世代の一流ピッチャーを間近で見たことでの収穫も多かった。特に刺激を受けたのが、作新学院・今井達也の存在だ。ストレートのキレが明らかに違う。低めのボールゾーンからホップしているように見えるほどのキレ。藤平が理想とする「打たれないストレート」の軌道だった。
「ああいう球を投げるには、ある程度の体が必要だと思っていました。でも今井は70キロぐらいの細身。今井の体を見てから、いろいろ考えるようになりました」
アジア大会から帰国後、藤平は1日3食の食事に戻し、体重を落とし始めた。ドラフト前に会った時は、85キロ。夏の甲子園では89キロまでいったようで、「体が重たいなと感じることもありました」と明かす。一度、80キロ台前半まで落としてから、また新たなトレーニングで体を作り上げようと考えている。
「U-18の高いレベルでやってみて、力で投げるストレートには限界があると感じるようになりました。上のレベルで戦うには力だけではなくて、体全身をうまく使って、キレのあるボールで勝負しなければいけない。本当、今井を間近で見て感じたことなんです」
楽天の先発陣は決して層が厚いとはいえない。早くから1軍での登板機会が巡ってくるのではないか。活躍のカギはストレートのコントロールにある。2年秋、3年春夏と、ヒザ元に決まる確率は上がってきているが、ここ一番で力を入れたストレートが浮くことも多い。2年秋以降、公式戦では宮里(常総学院)、山田啓太(東海大相模)、浅見遼太郎(横浜隼人)に被弾。いずれも高めに浮いたストレートだった。
「プロは結果がすべて。どれだけ能力を持っていたとしても結果を残せなければ意味がない。勝てるピッチャーになりたい。そのためにもキレのある“打たれないストレート”を追い求めたいです」
目標設定シートは、これからプロ仕様に書きなおす予定だ。真ん中にはどんな言葉を記すのか。ドラフト1位を実現させた今、藤平は次の目標に向かって歩みを進めている。
今夏、神奈川大会の中継(テレビ神奈川)を見ていた時、応援席からのレポートに思わず「え!」と声を上げてしまった。「藤平投手のお父さんは独学でトランペットを学び、応援席で吹いています」
確か、このような内容だったと思う。これまで高校球児のさまざまなエピソードを聞いてきたが、この話は初めてだった。
藤平本人に確認すると、3年生になってからずっと練習していたという。
「たまに実家に帰ると、父親がトランペットの練習をしていました。いつ吹くんだろうなって。春の関東大会は、学校の吹奏楽部が来られなかったので父親がひとりで吹いていたんです。応援歌も校歌も吹けます!」
「息子が頑張っているから、自分も」という思いがあったそう。
「はじめは恥ずかしい気持ちもあったんですけど、僕のために頑張ってくれたこと。その気持ちが嬉しかったです」
(※本稿は2016年9月発売『野球太郎No.021 2016ドラフト総決算&2017大展望号』に掲載された「28選手の野球人生ドキュメント 野球太郎ストーリーズ」から、ライター・大利実氏が執筆した記事をリライト、転載したものです。)