まず、楽天の野手陣で触れたいのは茂木栄五郎。シーズンでは何度か離脱したものの、リードオフマンとしてチームをけん引。2年目のジンクスに負けず成長している姿を見せた若鷲だ。
そしてCS。西武とのファーストステージでは、1敗して崖っぷちに追い込まれた2戦目にプレイボール後の初球をスタンドに叩き込むという、“究極の先頭打者本塁打”を披露。突破口を作り、ほかの打者にも勇気を与えた。
その勢いはソフトバンクとのファイナルステージ初戦にも波及し、再び先頭打者本塁打をお見舞い。2連勝の勢いをもたらし、横綱相手にあわやのシーンを演出した。
2、3戦目では振るわなかったが、4戦目は2安打、5戦目は3安打の猛打賞と反撃。チームの勝ちにはつながらなかったが、ファイナルステージを打率.316で締めくくれたのは、来季への自信につながったことだろう。
野手ではもう1人、ウィーラーも取り上げたい。
ファーストステージでは初戦、2戦目で沈黙したため、“逆シリーズ男”になりそうな気配だったが、3戦目に4打数3安打、1本塁打、2打点とすべてを帳消しにする大活躍。
ファイナルステージ初戦でもアマダーとアベック本塁打を放つなど、31本塁打でタイトル争いに絡んだ主砲が、楽天加入後初となる大舞台でもその力を十二分に発揮。今季の楽天の躍進は、この男抜きにして語れないとあらためて思わされた。
自身の成績とともにチームの成績もアップさせていることから、来季も残留となれば、この経験を糧にさらなる大仕事をしてくれるはずだ。
投手陣ではエース・則本昂大の不調が最初から最後まで尾を引いた。タラレバは禁物とはいえ、則本が登板したファイナルステージの3戦目で勝つことができていたら一気に王手だっただけに、楽天ファンとしては悔しさ倍増といったところか。
とはいえ、「あわや下克上」の立役者となった塩見貴洋、辛島航の両左腕の好投は見事だった。ファイナルステージの1、2戦目での2人の活躍がなければ下克上の夢は見られなかったので、あらためてこの2人に注目したい。
シーズン終了から期間が空いたことによってソフトバンクに「試合勘」に影響があったり、楽天の中継ぎ・抑えの好投にも助けられたはずだが、それでも塩見は6回1失点、辛島は5回1/3を1失点と好投。辛島には勝ち負けがつかなかったが、白星に等しい成果を挙げた。
楽天のローテーション投手といえば、先の則本を筆頭に、岸孝之、美馬学と右腕が並ぶ。後に続く釜田佳直や藤平尚真も右投げで、“右腕王国”と言っていい状況だけに、左投げの塩見、辛島にかかる期待は小さくない。
辛島は今季先発で8勝を挙げたとはいえ、基本的には投げては登録と抹消を繰り返した。黒星は8敗を喫している。塩見は腰痛に悩まされたとはいえ3勝はさびしい。
彼らが大一番で絶対王者を苦しめた力を、シーズン通して発揮することができるか。2013年以来の歓喜は、2人の活躍がカギを握っていると見る。
開幕から好調だった今季の楽天。梨田昌孝監督の「就任2年目に優勝」というジンクスも相まって栄光へと猛スピードで突き進んだことで、中盤までパ・リーグの話題を独占した。
しかし、スタミナが切れたのか夏場に勢いを失うと、西武との2位争いにも破れて3位でのフィニッシュ。
一縷の望みを持って挑んだCSでは、ファーストステージで西武にシーズンのリベンジを達成。ファイナルステージでは突破こそならなかったが、ソフトバンク相手に2勝を挙げた。
こうして常に最前線で戦い続けた楽天は、どのチームよりも濃いシーズンを送り、得難い経験を手に入れたことになる。
2013年のリーグ優勝と日本一は、田中将大(現ヤンキース)の24連勝、ジョーンズやマギー(現巨人)の活躍がクローズアップされるが、その前年のシーズンで4位ながら勝率5割と健闘し、チーム力が高まっていたことも大きかったはずだ。
この例を見ると、一時の勢いも重要だが、年をまたいだチームとしての強さもなれければ優勝には手が届かないということがわかる。それだけに来季の楽天は、さらに怖いチームになることだろう。
文=森田真悟(もりた・しんご)