上位チーム同士の1戦、夏休みの真っ只中という事もあり、横浜スタジアムは開門前から大勢の人で賑わっていた。
とくに、前日サヨナラ負けをして意気消沈気味だった広島ファンが、前日よりも意気揚々と球場入りしている様子が目立った。
その理由は、広島ファンが待ちわびた主砲ブラッド・エルドレッドが1軍復帰するとの報道が流れていたからだ。
停滞する打線を再び活性化させるには主砲の一発はうってつけ。横浜の夜空にアーチを描いてくれるのか? ファンのエルドレッドへの期待が、前日の悪夢を忘れさせてくれたようだ。
赤と青で埋め尽くされた球場に、スターティングラインナップが発表される。
5番レフト・エルドレッド
早速の先発出場に、ファンからの大歓声が上がる。高まる期待が大歓声となって表れたのだろう。それだけ一発の魅力は絶大なのだ。
しかし、爆発が期待された打線は再び沈黙。DeNAの先発・今永昇太の前に、7回までわずか2安打。初回に先制するものの、その後はチャンスすら作れず凡打の山を築いてしまう。こうなるとファンのフラストレーションもおのずとたまっていくもの。そして決まって沸き起こるのが心ない野次。
期待のエルドレッドがこの日2つ目の三振を喫した時には、
「バットに当たらないんやったら体にあててこいやー!」
などと、ファンとして耳を疑うような辛辣な罵声を浴びせる始末。
一方、湿った打線に反し、投手陣は奮闘。今シーズン初先発の大役を担ったヘーゲンズは5イニングを1失点に抑え、先発としての役割をしっかりと果たした。
力投したヘーゲンズに変わり、2番手にコールされたのは、なんと大瀬良大地であった。
マウンドへ向かう大瀬良に巻き起こる大瀬良コール。この球場の盛り上がりこそが、大瀬良の人気と期待の現れだろう。
期待に応えるように大瀬良も力投。打者3人をピシャリと抑え、次の攻撃への流れを作る。
そして迎えた7回表。先頭打者は5番・エルドレッド。
その初球だった。
高めのストレートをフルスイングした打球は高い放物線を描き、広島ファンの待つレフトスタンへ飛び込む勝ち越しホームラン!
多くの広島ファンが夢み、待ちわびたエルドレッドのホームランに三塁側が割れんばかりの大歓声に包まれたのはいうまでもない。
数分前までは野次を飛ばしていた観客も豹変。
「これを待ってたんじゃー!!」
と、広島ファンお得意の手の平返しも炸裂。エルドレッドのホームランが停滞する打線とファンを一気に上昇ムードへ押し上げた格好だ。
その後、石原慶幸のタイムリーも飛び出し点差を広げると、あとは逃げ切るのみの展開となる。
しかし、クライマックスシリーズ進出に向けて負けられないDeNAも粘りを見せる。7回に1点を返し1点差で迎えた最終回、広島の抑え・中崎翔太にあの男が対峙した。
あの男とは、もちろんDeNAの4番で、日本を代表するスラッガー・筒香嘉智だ。
何かをやってのけそうなオーラを放って打席に立つ筒香。しかも、一般逆転サヨナラの場面だ。そのオーラに恐怖する広島ファン。天を仰ぎ、祈るような気持ちで1球1球固唾を飲んで見つめる。その2球目だった。中崎の投げた外角へのツーシームをフルスイング。
そのスイングが広島ファンの恐怖心をさらに煽る。
「お、恐ろしい…」
しかし、首位をいく広島。その原動力として、開幕から抑えの座に君臨している中崎とて負けてはいない。筒香に臆することなく勝負を挑む。
その攻めの姿勢はファンの心に強く響いた。
DeNAファンのチャンステーマと、広島ファンの中崎コール。ファン同士も戦っている。両チームの応援合戦で揺れる横浜スタジアム。
そして、中崎が投じた6球目。外角へのスライダーで空振り三振に切って取る。球場を揺るがすほどの歓喜の絶叫がこだました。
後続も打ち取りなんとか逃げ切った広島。苦しい1戦だっただけに勝ちの喜びはひとしお。ヒーローインタビューに声援を送り、歓喜の大合唱は夜中まで続いたのだった。
優勝へ向け熱く苦しい闘いが続くであろう広島。今後も、球場からの熱を余すことなくお伝えしたい。
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)