『野球太郎』ライターの方々が注目選手のアマチュア時代を紹介していく形式に変わった『俺はあいつを知ってるぜっ!』
今回の担当ライターは栗山司さん。た『静岡高校野球』編集部を立ち上げ、静岡のありとあらゆる年代の選手を精力的に取材を行なってきました。大学野球界ではマイナーなリーグではあるかもしれませんが、静岡学生リーグで異彩を放ち、プロで花開く直前のあの選手を紹介して頂きました!
静岡学生リーグから初めてNPBに進んだパイオニア、松井淳。
僕が初めて松井の存在を知ったのは、彼が大学1年のときだった。当時、『野球小僧』編集部に所属していた僕は、あるテーマで日大国際関係学部の麻生知史(元ヤクルト)に取材した際、「同じ学年に凄いバッターがいますよ」と教えてもらった。
横浜商大高時代には通算30本塁打を放ち、スイングの速さにプロのスカウトも注目していた逸材だという。ただ、その時点では守備や走塁に課題があり、指名が見送られていた。
その後、日大国際関係学部に入学。日大国際関係学部が所属する静岡学生リーグは、全国大会への道のりが遠い。春は静岡学生リーグで優勝しても、 三重、岐阜の優勝チームと戦って勝たなければ、全日本大学選手権大会に出場できない。秋にいたっては、さらに愛知大学リーグや北陸大学リーグの上位チームとの代表決定戦が待っている。そこで勝ってようやく明治神宮大会に出場できるという、かなり狭き門だ。
普段のリーグ戦でスタンドにいるのは、ほぼ関係者のみ。新聞などマスコミへの露出も少ない。全国の大学連盟の中でも、かなり地味なリーグに位置していると思う。そんな中でも松井はモチベーションを落とさず、1年時からコンスタントに結果を残したのが立派だ。
2年春に打率.489をマークし、首位打者とMVPに輝く活躍。大学日本代表候補にも選出された。代表入りは叶わなかったものの、豪快なスイングは視察したプロのスカウトも驚いたほどだった。
僕は2年春から松井の動向をチェックしてきた。もっとも衝撃を受けたのは4年春のリーグ戦でのこと。その試合の第1打席、打った瞬間に本塁打とわかる猛烈な一打をライトスタンドに叩きこんだ。さらに、第3打席には逆方向への鋭い安打を放つ。身長は177センチとそれほど大柄ではないが、全身が筋肉の塊のような感じでパワフル。とにかく他の選手に比べ、スイングスピードの速さが際立ち、雰囲気は金本知憲(元阪神ほか)を彷彿させた。一振りで試合を決めることができる、勝負強さも気に入った。
横幅の大きい体格なので、一見、俊足には見えないのだが、走ってみれば50メートルを6秒0で駆け抜け、大学通算では31盗塁をマークしている。本塁打よりも、二塁打、三塁打が多いのも特徴で、特に三塁打は大学通算で12。外野の間を抜けたときの走塁のスピードは圧巻だった
それでも、4年秋のリーグ戦の終了時点で社会人から誘いを全て断り、プロ一本に絞った松井。ドラフト会議では東京ヤクルトスワローズから5位で指名を受けた。そして、静岡学生リーグから初めてNPB入りした選手となった。ちなみに、僕に松井のことを教えてくれた麻生も、同じヤクルトの育成ドラフト2位で指名されている。
プロ入り後の松井は、基本的には大学時代とプレースタイルは変わっていない。どんな相手投手でも、常に気持ち良くフルスイング。故障が心配になるほど、バットを振ってくる。
2年目にプロ初出場を果たすと、3年目の昨年はブレイクの兆しを見せる。6月にプロ初本塁打を放ち、レギュラーの座を奪うかに思われた。ところが、9月に左手親指付け根の靭帯を損傷。懸念していた故障で、その後は治療に専念した。それでも、46試合に出場し、41安打、5本塁打は立派な数字だ。
今季は4年目として、正念場を迎える松井。開幕戦では見事に5番ライトでフル出場し、1安打も記録したが、翌第2戦目では飯原誉士が、第3戦目は雄平がスタメンだった。このようにヤクルトの外野手争いはし烈なので、まずはレギュラーを確実なものにしていきたい。将来的には能力をフルに発揮して、ぜひトリプルスリー(3割30本30盗塁)を目指して欲しいと願っている。