カープの“伝説”を追う本企画。第2回で紹介したいのは石原慶幸。2000年代からカープを支える大ベテラン。信頼感のあるリードで真面目一筋の選手だが、実はある疑惑(?)が囁かれている。
歴代のカープの捕手でまず名前が挙がるのは達川光男だろう。1980年代の広島の黄金時代を支えた名捕手だが、印象に残るのはやはり「デッドボール詐欺」だ。
当たってもないのに悶絶するムーブ。幾度も『珍プレー好プレー』に登場した“常連さん”で、名捕手であるにも関わらず、トリッキーでコミカルなイメージが定着してしまった。
本人がこれを「おいしい」と思ったのも面白い。引退後も饒舌すぎるトークですべらない話を量産。バラエティートークなら歴代ナンバーワンといっても過言ではないほどの実力を持っている。現役時代のトラッシュトーク(打者へのささやき)を含め、伝説的な話術といえるだろう。
ときは2000年代。ネット上である疑惑が囁かれ始めた。
「石原慶幸がインチキをしているのではないか」
「カープの捕手」「インチキ」というキーワードを聞くと、先述のデッドボール詐欺が脳裏をよぎる。真面目でダンディー、渋みあふれる石原にはまったく無縁の言葉に感じるが、カープファンはあることに気がついたようだ。
不思議な珍プレーが多すぎる、と。
有名なのは通称「一握の砂」と呼ばれるトリックプレー。2013年5月7日のDeNA戦、2死一塁の場面でキャッチミスをしてしまい、“完全に”ボールを見失った石原だが、一塁走者の進塁を阻止するためにボールの代わりに砂を鷲づかみ。ボールをつかんだふりをして、ランナーを釘づけにした。ミスをカバーする頭脳プレーだったが、当の石原は大慌てだったという。
石原の不思議なプレーはこれに留まらない。石原といえばスクイズでも伝説的なプレーがある。完全に外されながらもジャンプ一番、まるで鯉のぼりのように体を反らせた「空飛ぶスクイズ」で有名だが、2012年にはセ・リーグ18年ぶりのサヨナラスクイズを決めている。
さらには2017年5月14日の巨人戦。1死二、三塁からスクイズを敢行した石原だが、外されて空振り。しかし、捕手がボールを取りそこない、2者が生還する“珍”スクイズ空振りになった。加えて、その打席では混乱の中、両軍がカウントを勘違いし、石原は四球で出塁した。
その他にもアウトになったフリをして歩いて進塁する、サヨナラデッドボールなど、石原が関与した珍プレーは極めて多い。
これを見逃さなかったのはテレビ朝日系のバラエティー番組『アメトーーク!』。これまで幾度も「広島カープ芸人」を放送しているが、なんと「石原のインチキプレー?」を特集。「どんなインチキを使った?」など、クイズ形式で石原の珍プレーにスポットライトを当て、「石原=インチキ」のイメージは全国的に広まった。
何度も言うが本来は渋みあふれる名捕手。本人も「インチキ」のワードは心外と語っているが、どうも広島の捕手には「伝説の珍プレー」を生む血が脈々と流れているようだ。
39歳を迎える今年もまだまだ実力は健在だが、そのうちミラクルプレーの秘話を語ってくれるのではないだろうか。伝説の裏話にも期待したい。
文=落合初春(おちあい・もとはる)