8月5日に第100回記念大会となる夏の甲子園が開幕! 開幕気分を盛り上げるべく、2014年秋の初開催以来、抜群の人気を誇る『野球太郎』の定番企画『スカウト的観戦者カルト座談会』が、東京ドームに程近い水道橋のとある一室で開催された。
今回は甲子園に出場する注目選手、惜しくも地方大会で敗れたドラフト候補、赤丸急成長選手を語り尽くす「夏の高校野球特別編」。台風が通過中という悪コンディションにも関わらず、たくさんのドラフトマニア、高校野球ファンが会場に集まった。週刊野球太郎では第1部の「甲子園100回大会に出場する注目選手」の様子をダイジェストで紹介!
出演者は本誌『野球太郎』でおなじみの“スカウト的カルト観戦者”蔵建て男氏、yuki氏、?梨雅男氏、FGE(ファーゲームイーター)氏。皆、全国の選手をチェックし、スカウト顔負けの鋭い視点で逸材を発掘。注目選手の正味を見立ててきた面々だ。
座談会は、4氏が選んだ「甲子園で見るのが楽しみな選手」(各5選手選択、3年生が対象)をもとにスタート。参加者全員がリストアップした唯一の選手は最速150キロ右腕の吉田輝星(金足農)だった。金足農といえば1984年夏の甲子園・準決勝でKKコンビのPL学園を土俵際まで追い込んだ激闘で有名。そんな懐かしのチームが第100回大会で甲子園に戻ってくる。しかも、エースの吉田は「桑田真澄(PL学園→元巨人)のようだ」と評判。何か不思議な縁を感じる……。現時点では、吉田の知名度はさほど高くないものの、その真価は?
yuki:全員が選んだのは納得。甲子園が始まれば「今大会ナンバーワン投手」と言われるでしょう。
FGE:同感です。文句のつけようがありません。
蔵 :甲子園に出場する投手では一番完成度が高いですよね。
yuki:150キロを出せるし、初球からズバッとストレートでストライクを取れて、守備もいい。桑田を超えるとまでは言えないけど、同等の活躍が期待できます。
?梨:馬力があって、総合力が高い。馬力で言えば桑田以上かもしれません。
蔵 :ただ、ドラフト観点では目玉ではないかもしれないけど……。
?梨:自分は逆の見方をしています。吉田は1位指名じゃないと獲れない選手だと思います。1回戦で組みやすい相手と当たって目立つ活躍ができれば、世間的な知名度も一気に上がるでしょう。
yuki:完成度で言えば、大学や社会人チームに進んでも、“これ以上何をやるの?”というレベルですからね。
FGE:完成度が高い分、伸びしろがどれだけあるのかという点は気になります。それに、高卒選手ならば“今はまだまだだけど成長した先が楽しみ”という夢のある指名をする球団も出てくるでしょうし、2位指名あたりで落ち着く可能性もあります。甲子園で活躍すれば間違いなく1位指名でしょうけど。
このように吉田の投球は今大会での最重要チェックポイント。蔵氏は「吉田は終盤で点を取られるケースがある。相手打者に慣れられてしまうのか。甲子園ではその点を確認したい」と注目点を挙げた。
吉田に続く注目投手として蔵氏、yuki氏、FGE氏がリストアップしたのが浦和学院の右腕・渡邉勇太朗。投球センスとスケール、ゲームメイク力を併せ持った大器だ。春先に右ヒジ痛を発症して出遅れたが、春の関東大会で復帰。今夏の南埼玉大会ではセーブした投球のようにも見えたが……
蔵 :去年の夏の時点で今年のドラフト1位だと思っていました。甲子園にピークを合わせられれば、びっくりするピッチングを見せてくれるでしょう。
yuki:あのボールのキレは驚きです。甲子園でアドレナリンが出る場面になったら、すごいことになりそう。2016年夏の今井達也(作新学院→西武)のようにいきなりドラ1まで駆け上がる可能性は十分です。
FGE:素材は間違いなくドラ1級ですからね。あとは、余力の部分をどれだけ甲子園で出せるか。
?梨:心配なのはヒジが下がり気味で腕が背中側に入るピッチングフォームなので、ヒジを痛める可能性がつきまとうことです。将来を考えると、甲子園ではどれだけセーブできるかがポイントかも。全力投球を続けた反動が怖いですから。
酷暑の今夏、高校野球でも熱中症対策が大きな問題となっている。ただ、頂点を目指す灼熱のグラウンドで、ギリギリまで心身を追い込んでプレーしてしまうのは球児の性。そんな普通じゃない状況から信じられないプレーが生まれてきた。渡邉はもちろん、ケガの心配のある選手の爆発を期待したいが、将来を見据えた体調管理にも目を配らないといけない。難しい問題だ……。
『野球太郎 No.027 2018夏の高校野球&ドラフト大特集号』の巻頭に掲載されている「野球太郎的ドラフト候補ランキング 高校生部門」には根尾昂(1位)、藤原恭大(2位)がランクイン。また「高校トッププロスペクト100選手名鑑」には柿木蓮、中川卓也を加えた4人が名を連ねている。スカウト的観戦者の4氏からすると“注目候補なのは当たり前”的に、大阪桐蔭の選手はリストから外れているが、根尾と藤原をどう見立てているのか?
?梨:ドラフト観点だと根尾は野手でいくべきだと思います。ピッチャーとしては、体力を消耗するピッチングフォームなので、どこまで高いパフォーマンスを維持できるのか疑問です。
蔵 :僕はこれまで根尾を投手としては見ていないので、やっぱり野手です。
?梨:ポジションはショート。ショートができるのはスカウトにとって魅力ですから。ただ、入団後はチーム事情、本人の伸びしろで別のポジションに就く可能性はあります。
蔵 :数年後にサードや外野に回っていそうな気がします。
yuki:私はこれまでピッチャーとして見てきましたが、底が見えてきたかもしれません。そこで、この夏から野手派に(笑)。野手としての底はまだまだ見えていませんから。ただ、二刀流の可能性は残しておきたいです。
FGE:これだけの才能なので投手としても捨てがたい。ショートからリリーフに上がるシーンを見てみたいです。
?梨:藤原に話を移すと外野手では1番。スイングはスケールアップしているし、もちろん足は速い。今夏は四球を選べるようになってプレーの質が丁寧になりました。甲子園でも四球でつなぐ意識を持つことで優勝が近づくでしょう。
yuki:一生懸命プレーする選手ですよね。常に全力疾走で、送球も目一杯投げる。この姿勢は大事です。
蔵 :ただ、一生懸命やりすぎているので、どれくらい伸びしろが残っているのか。そういう意味では根尾の方が、余力があるように見えます。
このほかの大阪桐蔭の選手のなかで、最速148キロまで球速を上げ、長いイニングも投げられるようになった柿木ついては「大事な試合を任せてもらえるか?」がポイントに挙げられた。センバツでは勝負所でマウンドに立ったのは根尾だった。根尾と柿木が本当の意味で2本柱になったとき、大阪桐蔭春夏連覇の可能性はとても大きくなる。
昨夏の甲子園で2本塁打を放ち、今夏は「4番・投手」として花咲徳栄の投打を引っ張る野村佑希、パワーを増した安打製造機・小園海斗(報徳学園)ら全国での実績があるドラフト上位候補に世間の目は向きがちだ。しかし、逸材はまだまだ潜んでいる。
蔵氏は左腕ナンバーワンの評価を得るポテンシャルを秘めた投手として、メンタルが強くゲームメイクに長けた川原陸(創成館)、“打ちにくいストレート”が武器の垣越建伸(山梨学院)を挙げた。そして、野手では小柄ながら守備と足で目立つ選手になりそうと松本渉(龍谷大平安)をピックアップ。
yuki氏はケガから復帰し、西千葉大会途中から出場を果たした大谷拓海(中央学院)の打棒、俊足を生かした破天荒なプレーが見ものの阿部剛大(沖学園)を推した。
?梨氏は“大学に進んでから150キロ投げる可能性を秘めた投手”として富田卓(土浦日大)、スイングスピードと瞬発系の力に度肝を抜かれたと長野匠馬(折尾愛真)、ずば抜けた馬力が魅力の野尻幸輝(木更津総合)、昨年6月の早稲田実との招待試合で、清宮幸太郎(現日本ハム)を向こうに回して5打数5安打と輝いた水野達稀(丸亀城西)を楽しみにしていると述べた。
FEG氏は“ロマン枠”としてストレートだけで空振りを取れる山田龍聖(高岡商)、柳田悠岐(ソフトバンク)を初めて見たときと似た衝撃を受けたという長野匠馬(折尾愛真)の名を挙げた。
さあ、いよいよ100回目の夏が始まる。そして、この宴が終わればドラフトは目の前だ。本誌『野球太郎』やスカウト的観戦者たちの見立てをガイドに、注目選手の一挙手一投足に熱視線を注いでみよう。
なお、本座談会の第2部で行われた「地方大会敗退のドラフト候補、赤丸急成長選手」は『野球太郎』定期購読者にお送りしている「野球太郎友の会通信」に掲載されるのでお楽しみに!
蔵建て男(くらたてお)
ドラフトサイト「迷スカウト」管理人。ネットスカウトの草分け的な存在。ハンドルネームは競馬で「蔵を建てたい」という願望からきている。
渡邉 勇太朗(浦和学院)/投手
吉田 輝星(金足農)/投手
川原 陸(創成館)/投手
垣越 建伸(山梨学院)/投手
松本 渉(龍谷大平安)/外野手
yuki(ゆき)
1996年から20年以上続く老舗サイト「ドラフト会議ホームページ」の管理人。
吉田 輝星(金足農)/投手
渡邉 勇太朗(浦和学院)/投手
鶴田 克樹(下関国際)/投手
阿部 剛大(沖学園)/遊撃手
大谷 拓海(中央学院)/外野手・投手
?梨雅男(たかなし・まさお)
小学3年から『報知高校野球』を愛読し、今は高校野球の映像収集が趣味。強豪校野球部OB。
吉田 輝星(金足農)/投手
野尻 幸輝(木更津総合)/三塁手
水野 達稀(丸亀城西)/遊撃手
富田 卓(土浦日大)/投手
長野 匠馬(折尾愛真)/外野手
FGE(ファームゲームイーター)
大学で硬式野球をしたのをきっかけに大学野球にハマる。ロマンあふれる選手を好む傾向が強い。
吉田 輝星(金足農)/投手
渡邉 勇太朗(浦和学院)/投手
佐藤 幸弥(羽黒)/投手
山田 龍聖(高岡商)/投手
長野 匠馬(折尾愛真)/外野手
文=山本貴政(やまもと・たかまさ)