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Jリーガーの息子を持つ高木豊に訊く「プロ野球選手の育て方」3…どのスポーツでもプロとしての心構えは同じ

◆技術より精神面でサポート

 元プロ野球選手でありながら、3人の息子はプロのサッカー選手を目指して成長していく。畑違いのサッカーに対して、高木氏が野球で培った技術や知識は無力だった。

「息子たちが子どもの頃、父親同士でチームを作ったんです。そこで、子どもと同じポジションでやろう! と、実際にプレーしたら、まったくできませんでした。初めて知ったんですが、ボールの位置が少しでもズレると、もうシュートって打てないんですよね。正確なトラップが必要なんです。そういったことがわかってからは、技術的なことは言わないようにしました」

 高木さんは考え方を切り替え、子どもたちの自由にやらせるようになったのは第1回で記したとおりである。そのかわり、精神面のことで役に立つアドバイスをするように心がけた。幸いだったのは、3人とも早い段階からプロになることを希望したことだ。

「それがなかったら何も言わなかったですけどね。チームの中でもいいところにいましたし、アンダーの代表にも選ばれていましたから、常にプロを意識させるような話をしました」


 プロだったらそんなプレーはしないでしょ?
 もう少しこうするでしょ?

 プロ野球選手であったことが、説得力を増す。

「彼らはまだプレーヤーだから色々と動くじゃないですか? でも、僕の過去というのは動かない。そういう意味ではラクでした」

 とはいえ、高木さんが何もやらなかったわけではない。3人が高校生の頃までは可能な範囲で応援に出向き、父親や関係者などとの交流によってサッカーを見る目を養った。Jリーグでプレーするようになってからは、気を遣わせたくないという気持ちと、サッカーの試合が野球の仕事と重なる実情もあって、現場に行く機会は減ったが、録画した映像などでチェックを欠かさない。そのせいか、息子たちから父にアドバイスを求めることもあるほどになっていた。

◆プロの壁に悩んでいた長男に的確なアドバイス


 長男・俊幸(浦和レッズ)がプロ1、2年目の頃に面白い逸話がある。それまでユースでもかなり点を取っていた俊幸は、プロでも同じように得点できると自信を持ってJリーグに臨んだ。ところが、シュートを打てどもブロックされたり、枠に当たったりで点が入らない。

「何でなんだろう?」

 たまりかねて、父に聞きに来た。そこで高木さんはアマチュアとプロの違いを指摘し、以下の様にアドバイスした。

「アマチュアの選手はお前のスピードについてこなかったかもしれない。でもプロは必死についてくる。そして、最後の最後は体を張ってくる。そこがプロとアマの違いだよ。でも、体を張るということは、もう体(たい)がないということだろ? 1回、体を崩せばシュートコースは空くはず。だから1回フェイントを入れてみろよ」

 それ以来、俊幸はフェイントを入れ、得点できるようになった。まさに「プロはプロを知る」。高木さんだからこそのベストアンサーだった。この話はスポーツ選手の父であることが生きたケースだが、一般家庭でも、父親が仕事で得たプロ意識を重ねることで、子どもに効果的な助言を与えられるチャンスがあるに違いない。

「父親は母親と比べたら子どもと接する時間は少ない。だから、どのくらいのインパクトを残すかでしょうね。いつ何を聞かれても的確に答えられるよう、準備はしています」


 これはどこの家庭でも実現できることだ。

◆プロとしての意識は「まだわかってない」

 現在は、サッカー選手として父と同じプロになった3兄弟。親子間では“パパ”であることに変わりはないが、高木さんが偉大なプロ選手であることをいつ頃から自覚するようになったのだろうか?


「小さい頃はそういう意識はまったくなかったと思いますよ。プロになって初めてプロの大変さを知って、父親のことをわかったんじゃないかと思いますけどね」

 しかし、「プロとしての意識について『わかってきたな』と思うようになったのはいつ頃ですか?」という質問に対しては、数秒間沈黙してからボソッと漏らした。

「………まだ、わかってない(笑)」

 考えてみれば、長男の俊幸にしても今年24歳。経験値は父に遠く及ばない。そこはプロの先輩として思うところがあるようだ。

「今の時点で、達成感はまだないでしょうけど、少しの満足感は味わえている。それはちょっと違うぞ、と。年齢的には大学を出たての年代ですが、普通よりはるかに高いお金をもらって、いい車にも乗って。まあ、金を使いきれるくらいの男じゃないとプロとして大成しないぞ、と昔から言っていましたから、それはいいんですけど、もっともっと努力できるだろ? とは思いますね」

 とはいえ、彼らもプロ。自分で気づくべきことでもある。

「僕自身も現役の頃はそうでしたからね」

 そこは父としてあえて静観し、温かく見守ることに徹する構えだ。


《次回に続く》

■プロフィール
高木豊(たかぎ・ゆたか)/1958年10月22日生まれ、山口県出身。多々良学園高〜中央大〜横浜大洋ホエールズ・横浜ベイスターズ〜日本ハムファイターズ。中央大では東都大学リーグ通算115安打、ベストナインを4回獲得した。ドラフト3位で横浜大洋ホエールズに入団。「スーパーカートリオ」の1人として、1984年に盗塁王、その後、遊撃手と二塁手で3度ベストナインに輝くなど活躍した。1994年に現役を引退後は、アテネ五輪野球日本代表の守備走塁コーチなど指導者としても、野球解説者としても活躍した。ツイッターアカウント/@bentu2433

■ライター・プロフィール
キビタキビオ/1971年生まれ、東京都出身。野球のあらゆる数値を測りまくる「炎のストップウオッチャー」として活動中。元『野球小増』編集部員で取材経験も豊富。NHKのスポーツ番組に出演するなど、活躍の場を広げている。ツイッターアカウント/@kibitakibio

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