昨シーズンの優勝の大きな原動力となったのは中崎翔太、今村猛、ジャクソンからなる強固な救援陣だ。
しかし、その救援陣に異変が起きている。若手先発陣の活躍や、劇的な逆転劇の陰に隠れてさほど目立たないが、今、救援陣は危機的な状況にある。クローザーの中崎が脇腹の負傷で離脱。抑えの大黒柱を失い、暗雲が立ち込めている。
中崎不在のなか、最も頼りとされるのはセットアッパーのジャクソンだ。しかし、失点こそしていないものの、完璧ともいえた昨シーズンに比べると、今シーズンはやや安定感を欠いている。
昨シーズンは被安打率.167とほぼヒットを許さなかった。しかし、今シーズンはここまで被安打率.347と「打たれすぎ」な感は否めない。また、昨シーズンは1イニングあたり1.02人の出塁で抑えていたが、今シーズンは1.72人。ランナーを背負うケースが多くなっている。
盤石だった救援陣のほころびは大きな不安要素だ。
さらに、中崎不在の余波で、ケガから復活した中田廉、薮田和樹への負担が増加。後半で息切れが懸念される。
「現代野球」を制するには、救援陣の活躍が必要不可欠。この危機的状況を解決しない限り、不安はつきまとう。
今シーズンの広島は、強力な打線にものをいわせた劇的な逆転勝利を何度も収めている。相手にプレッシャーを与え、ミスにつけ込み、集中砲火を浴びせる様は容赦がない。
相手のミスを突破口にする攻撃は「責任追及打線」と呼ばれ、他球団ファンを震え上がらせている。
しかし、「打線は水物」という言葉あるように、打線の調子は大きく上下動する。それだけに、今の好調は一過性のものなのでは? と、そんな見方もできる。
先の連勝は打力に頼っていたところも大きいだけに、打撃陣の歯車が狂いだすと……。
かつて、多くのチームが失速をしていったのを目の当たりにしただけに、「主力の打者達の調子が落ちたら、ケガでもしたら……」と、不安にかられるのだ。
広島ファンにとって、忘れ得ぬ屈辱と恐怖がある。1996年、最大11.5ゲーム差をひっくり返され巨人に逆転優勝された一件、俗にいう「メークドラマ」だ。
長い低迷期を経験し、すっかりネガティブ気質が身についてしまった広島ファンは、広島が先頭を走れば走るほど1996年の惨劇を思い起こしてしまう。
今なおトラウマとして抱える悲劇を2度と経験したくない。そんな恐怖心が強すぎるため、広島が首位を快走すると「メークドラマ」をささやく声がどこからともなく聞こえてくるのだ。
昨シーズンもそうだった。散々「メークドラマ」が口の端に上った。しかし、それをはねのけて優勝した。それでもなお、呪縛はとけないでいる。それほど心に深く刻まれた悲劇だったのだ……。
この呪縛をとくには圧倒的な連覇を果たすしかない。
ついネガティブになりがちな広島ファン。しかし、エースのジョンソンとクローザーの中崎を欠いた状態で10連勝を達成したことを忘れてはいけない。これは広島の地力がついたことの裏づけだ。
実績のある両投手が万全で戻ってきたならば、さらに戦力は上積みされる。そう考えたら、少なからず安心できそうだ。
不安になっている広島ファンの皆さん。今シーズンもカープは強い! 「メークドラマ」はもう忘れてしまいましょう!
(成績は4月18日現在)
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)