◆この連載は、高校時代を“女子球児”として過ごした筆者の視点から、当時の野球部生活を振り返るコーナーです。
新学期を迎え、私は2年生になった。クラス替えでそれまで担任だった野球部顧問は隣のクラスの受け持ちになり、新たに担任となったのはブラスバンド部の顧問。半年前に退部を告げた相手と毎日顔を合わせることになり、少し戸惑った。
あとで知ったことだが、これは別クラスにいても普段の私の様子をうかがえるようにといった、野球部顧問の配慮だった。特殊な環境に身を置いた私のことを、先生たちが気遣ってくれていると知り嬉しく思った。
練習や試合の日々を過ごし、7月を迎える。野球部員となって初めて経験する夏の大会。甲子園へのキップをかけた地方大会が始まった。
当時の3年生には個性的かつ力のある選手が揃っていて、練習中のやり取りを見ているだけでも楽しかった。お世話になった先輩たちの背中を少しでも長く見ていたい。いい高校野球生活の締めくくりを迎えてほしい。そんな思いで声援を送り続けた。
先輩たちを中心に据えたチームは初戦を大勝で飾り、続く試合にも勝利した。強豪の私立高校と相対した4回戦で散ることとなったが、母校の得点や安打、奪三振など、その年の大会記録をいくつも作ったのは印象的な思い出。切り抜いた新聞記事は今でもファイルに保存してある。
涙とともに上級生が去り、いよいよ自分たちがチームの主力となった。
また地道な練習の毎日が始まり、そして8月の半ばには合宿がある。泊まり込みで、ただただ野球に打ち込む数日間。
学校のグラウンドは細長く、広いわけではないのでファウルを打てばすぐにボールが隣接する畑へ飛んで行ってしまうし、土が硬く、整備で平らにならすのが難しく、バウンドが変わりやすい。決して、野球に適した練習場所ではなかった。
だからこそ合宿は貴重な時間だった。何も気にすることなく、好きなだけ投げたり、打ったりしてもいい。遠投だって思い切りできる。皆でその距離を争った。
しかし、そこで露呈されるのは人一倍の肩の弱さ。どんなに頑張っても、ボールが外野まで届かない。放物線が向こうまで伸びることなく失速する。
運動能力だけではない。やはり男子と女子では持って生まれた基礎体力が違うのだ。それを痛感して少し悲しくなった。
私は心の中で強く思った。強い肩で遠くまで白球を投げられる男の子が羨ましい。男子部員に交じりながらボールを投げるたび、この先、幾度となくわきあがる憧れは、この時に生まれたのかもしれない。
「男の子になりたい!」