今ドラフトは1年前から、いや、2年前から清宮幸太郎(早稲田実)が注目の的だったと言ってもいいだろう。高校生史上最多タイとなる7球団が競合。抽選の末に日本ハムが交渉権を獲得した。
筆者の贔屓球団でもあるヤクルトは清宮の抽選を外し、「九州のベーブ・ルース」こと村上宗隆(九州学院高)を外れ1位指名。ここでも楽天、巨人と競合したが、小川淳司新監督がしっかりと当たりくじを引き当てた。ただ、この外れ1位を会心の指名と言ってしまっていいのかどうか難しいところだ。もちろん村上の善し悪しではなく「1位で清宮を獲りにいき外した」という事実があるからだ。それでは、ヤクルトにおける会心の指名はだれになるのだろうか。
今ドラフトで、ヤクルトは以下の通り、8人の選手を指名した。
■2017年:ヤクルトのドラフト指名選手
1位:村上宗隆(捕手/右投右打/九州学院高)
2位:大下佑馬(投手/右投左打/三菱重工広島)
3位;蔵本治孝(投手/右投右打/岡山商科大)
4位:塩見泰隆(外野手/右投右打/JX-ENEOS)
5位;金久保優斗(投手/右投右打/東海大市原望洋高)
6位:宮本丈(内野手/右投左打/奈良学園大)
7位:松本直樹(捕手/右投右打/西濃運輸)
8位:沼田拓巳(投手/右投右打/石川ミリオンスターズ)
指名選手の事前の評価からすると上位指名に物足りなさを感じるかもしれない。即戦力重視なのか育成重視なのかが、はっきりしないようにみえるからだ。隠し玉とまでは言わないものの、2位で大下佑馬(三菱重工広島)を指名したのには驚いた。3位の蔵本治孝(岡山商科大)も同様にこの順位で指名するとは思っていなかった。
このように上位指名では驚きの指名が多かったなか、ヤクルトは6位で宮本丈(奈良学園大)を指名する。下位で侍ジャパン大学日本代表の遊撃手兼三塁手を獲得できたのは会心といえる指名だった。
宮本は山田哲人、寺島成輝と同じく履正社高OB。奈良学園大では1年春からレギュラーを獲得する。1年秋から4年春まで6季連続でベストナインに選出され、首位打者に輝くこと3度。近畿学生リーグとはいえ、ずば抜けた成績を残している。しかし、ノーステップの独特な打撃フォーム、遊撃守備の不安という懸念があり、各球団ともに敬遠したのだろうか。6位まで名前が呼ばれることはなかった。
ただ、この懸案点は解消できる可能性は十分。まず打撃フォームに関しては、結果が出なければ指導が入ることは間違いない。しかし、結果を出せば青木宣親(今オフにメッツを自由契約、現FA中)のように変則的な打撃フォームでも矯正されることはない。そういった意味でも、ヤクルトは持てる力を発揮しやすい環境と言えそうだ。
また遊撃守備は、不安が拭えない場合は三塁を含めすぐにコンバートされるだろう。ヤクルトの内野陣は遊撃手からコンバートの歴史でもある。山田、川端慎吾、荒木貴裕ら現在は遊撃手としてプレーしていない選手たちも入団時は遊撃手だった。
攻守ともに不安があるのは事実。その弱点が露呈しているからこそ、上位指名予想だったにもかかわらず、この順位まで残っていたのだろう。しかし、侍ジャパン大学日本代表に選ばれた紛れもない実績がある。ポテンシャルが高いことは間違いない。
過去、ヤクルトのドラフトを振り返ってみると下位指名からの大ブレイクは数少ない。ドラフト6位以下だと1970年の10位・杉浦亨まで遡ることになる。その1970年は今季以前の球団ワーストだった94敗を記録した年だ(今季は96敗)。不名誉な記録を更新した今年のドラフト6位から、チームの柱となる選手が生まれることにドラマがある。
10年後、いや5年後に「宮本を6位で指名したのは会心だった」と筆者を含めたヤクルトファンが、語れるような大ブレイクを期待したい。
文=勝田聡(かつた・さとし)