センバツが始まる前から智辯学園高の岡本和真は話題のバッターだった。しかし、まだまだ「押し出されたスター候補」の匂いがあった。その時点で高校通算58本。圧倒的な飛距離で魅せるパワーに、変化球に対応の柔らかさもあり、打撃に大きな欠点は見当たらない。観戦した3月9日、滋賀学園高との練習試合でも早々の一発を含めマルチヒット。滑り出しも上々だったが、「押し出された」感が抜けなかったのは、何より全国での実績を持っていなかったから。いくら凄い、凄いといっても、どこまで凄いのか。報じる側の多くの人間も、受け入れる側の高校野球ファンも、評価する側のプロのスカウトも、実際のところはよくわかっていない者が多かったはずだ。
逆に言えば、今センバツで岡本への注目は、『甲子園で何を見せられるか』、この1点にあったといっていい。結論から言うと、岡本は少なくとも今年の高校球界では本物のスターになった。
初戦の三重高戦で2発。それも品定めの目が四方八方から注がれた注目の初打席でのバックスクリーン弾を含め2発。このふた振りで岡本の立ち位置は決まった。夏まで、そして秋まで、さすがに以前の中田翔(大阪桐蔭高→日本ハム)や今の安樂智大(済美高)ほどにはならないとしても、それなりの騒ぎと評価の中で過ごすことになるだろう。
「そら、あんなところに投げたら打ちますよ」。
同じ日、第1試合の智辯学園高に続き、第3試合に登場した智辯和歌山高の高嶋仁監督が試合前取材で記者に話していた。岡本の2発の感想を求められてのものだったが、記者連中の中からも同様の声は少なからずあがっていた。「あの球じゃ打って当然……」と。
確かに三重高の左腕エース・今井重太朗の配球には少々首をかしげたくなった。初打席では6球、すべて真っ直ぐ。その球速は全般的に120キロ台中盤から130キロ前半が中心。それも、左特有のクロスに入ってくる球筋はなく、やや汚い回転、動くような球筋で右打者の内を狙うと真ん中に入ってくる傾向があった。しかも、最も抑える確率が高いと見えた、インコースへのスライダーを1つも使うことなく……。
もちろん、考え抜いた末の配球ではあったのだろうが、バッテリーからその答えを聞くまでは、疑問の残る投球ではあった。
2打席目はスライダーも交えたが、最後はやはり甘く入ってきた内寄りの真っ直ぐをレフトスタンドに持っていかれた。岡本は「インコースは苦手じゃないし上手く打てました」と語っていたが、やはり甘い球だった。僕は見ていなかったのだが、この2発目の勝負球。甲子園のスコアボードの表示が118キロか何かだったらしく、近くにいたライター2人は「スライダー」と言った。しかし、表示を見ていなかった僕の目にはどう見ても真っ直ぐに見えた。試合後、インタビューが行われる通路のモニターで見ると、やはり真っ直ぐだった。120キロに届かない内寄り高めの真っ直ぐ。これもまた、高嶋さんでなくても一言言いたくなる球ではあった。