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田中将大はなぜ勝てるか?投球フォーム、メジャーに行って進化した点など細かく分析!

 昨シーズンは公式戦24連勝、MLBに戦いの場を移した今シーズンも、まだたった2回の先発機会であるが、ともに試合を作り、十分な結果を残している。

 日本球界を代表する投手となり、日本とは環境の違うMLBでも早くも適応している田中将大。このような素晴らしい結果を出す理由は何なのか? 投球フォームや体の使い方といったスポーツの動作分析に詳しいタイツ先生に田中将大のスゴイところを聞いてみた!

ひみつ13:重力加速度の時間が長い事がスゴイ

「昔は全力投球で投げていましたが、今はメリハリで投げています」

 マー君は昨年のテレビのインタビューで次のように答えている。そこで、全力投球の時代のフォームとメリハリの投球の昨年のフォームを比較してみた。一番の違いは、「重力加速度」と呼ばれる、物体が落下し続ければ、その物体はどんどん加速していく物理法則により加速していく時間の長さだ。

 全力投球時代は体重移動時に上半身に力が入るタイミングが早く、重力加速度の時間が短い。現在のメリハリのフォームは重力加速度の時間が長い。こちらはためをつくって、ゆったりと投げるように見える。このように投げることで、エネルギーを効率よく増加させて、重量級のような重い球質のボールが投げられるのだ。

ひみつ14:球持ちがスゴイ

 そもそも球持ちとは何かというと『ボールに力を加えている時間が長い』という事。強いボールを投げられる物理法則である。例えるならば、ピストルとライフルにおける銃身の長さと威力の違いといったところ。

 マー君が、長い間、ボールに力を加えられている最大の要因は「ねじれ」だ。人間の動きは、曲がったものは伸びて、ねじれたものはねじり戻される。マー君の投球フォームは、足首、膝、股関節、みぞおち、首、肩関節、ヒジ、手首を曲げ、両腕と両足を深くねじった(内旋)態勢で体重移動する。この状態から、リリースに向かって、関節群を伸ばし、ねじり戻すには相当時間がかかる。また、しっかり伸ばし、ねじり戻してから投げる、その柔軟性と筋力の強さがスゴイ球持ちを生んでいる。



ひみつ15:体幹部のバネ作用を使った投球で、球を高回転させる事がスゴイ

 体幹部のバネ作用とは、まず王貞治選手のバッティングをイメージしてほしい。一本足で立った時に、少し前かがみになっている。そこから踏み込み、スイング、ボールを打ち、フォロースルーを経て、バットを置く……この最後の瞬間には反対に体を反った状態になる。簡単に言うと「前かがみ→体を反らす」動きのことを「体幹部のバネ作用」を利用している、となる。もちろん、その反対の「体を反らす→前かがみ」というバレーボール選手がアタックする動きも体幹部のバネ作用を使った動きである。これを効果的にフォームに取り入れているのがマー君だ。

 マー君は左足を上げる時に、遅れてくるような独特な振り上げをする。この時に1度目の体幹部のバネ作用が起こる。そして、みぞおちの力を抜いた体重移動からリリース直前に2度のバネ作用を使ってリリースする。この体を最大限に使ったリリースにより、高回転のストレートや、ドライブ回転がかかるスライダーが投げられるのだ。

 今年49歳を迎えるもまだ現役を続ける山本昌投手(中日)もこの体幹部のバネ作用を生かしたフォームで現役を続けているのだが、この話はまた別の機会に……。

ひみつ16:「打たせてとる」、「三振でうちとる」の2つを選択できる投球がスゴイ

 マー君の球種はストレート、スライダー、カーブ、ツーシーム、スプリット、カットボール、チェンジアップと言われている。これらを素晴らしいキレとコントロールしているだけでも十分スゴイが、さらに同じ変化球でも打者の動きを見ながら変化をコントロールしているように見える。実際にしているかどうかは本人に聞かないとわからないが、それが可能だと感じさせるのは、実に体重移動がしっかりしているフォームだからだ。

 投げる動作の中で、コントロールをつける中枢は体重移動が投げる方向にしっかり向かう事。マー君の場合は、ホームベースに、いや、極端かもしれないが捕手のミットに向かっていっている。さらに、ゆったりとしたフォームで、下半身から体幹部、指先と順々に力が伝わたっていくので、力が分散するロスもブレも少ない。

 このプロセスによって、安定したコントロールが実現でき、打者の動きを観察しながら、最後に指先の力加減を変えることで、ちょっとした変化にも対応できる。だから、打たせるのも空振りをとるのも、マー君が選択するような投球が可能なのだ。


ひみつ17:ボールへの適応力がスゴイ

 メジャー球は重くて、皮がツルツルで、縫い目もまちまち(幅も高さも均一ではない)。多くの日本人メジャー投手たち苦慮してきた点だ。

 メジャー球を投げるイメージを極端に言ってしまうと、砲丸を野球投げしているようなもの。日本の使用球だと、腕から指の間隔で調整ができるかもしれないが、均一ではないメジャー球を腕から指先で毎回コントロールをすることは難しく、若干の重さにより、腕(ヒジや肩などの関節)への負担は大きくなる。

 だが、マー君は「ひみつ13:重力加速度の時間が長い事がスゴイ」でも言及したように素晴らしいフォームでバランスをとっている。しっかり体重移動ができないと腕への負担がいっそう大きくなるが、これも問題はない。

 また、いくらフォームがよくても、最後にボールに力を伝える指感覚がメジャー球に馴染まないといけない。しかし、開幕から先発した2試合の成績は、14回を投げて1四球18奪三振。現時点では十分に手懐けている印象だ。まだまだコントロールミスはあるが、連続で失投を投げたり、四球につながったりしないマー君はスゴイ。

ひみつ18:マウンドの固さへの適応がスゴイ

 メジャーのマウンドの固さは「アスファルトで作られたようなもの」と言われるくらい固いらしい。試合を見ていてもわかるが、投手が踏み込んだ前足のスパイクの歯が、地面に突き刺さるとほとんど動かない。日本の穴が掘れるようなマウンドとは大違いだ。

 多くの日本人投手は、下半身が主導となり、踏み出す足の親指の付け根を接地する。このフォームのまま、メジャーのマウンドで投げると、接地した親指の付け根が突き刺さり(引っかかり)、体重移動と回旋がしにくくなる。そこから強引に投げてしまうようになる(さらに「ひみつ17:ボールへの適応力がスゴイ」で言及したメジャー球による負担増も重なる)ので、日本では故障と無縁に近かった藤川球児投手(カブス)や和田毅投手(カブス3A)が手術することになってしまったのだと考えられる。「日本式」のフォームでは活躍はおろか、ケガをする可能性のほうが高くなってしまう。

 マー君も松坂大輔投手(メッツ3A)のように苦労するのか? と思ったが、実は少し違っていた(メジャーのマウンドに合わせて変えた?)。踏み出す左足の親指の付け根から接地しそうなところで、一度浮かせ、そこから足裏全体で垂直に接地している。日本に来る外国人投手は上げた足をすぐ下ろし、体重移動して、最後にドンッ! と踏み込むフォームが多いが、その「最後にドンッ!」という部分をマー君は習得していたのだ! かえって日本のマウンドの柔らかさによるズレがないのでスピードが上がるかもしれない。

 ちなみに、固いマウンドの適性は足裏全体で真上から接地するか、踵から入る接地かに限られると思う。マー君と同じタイミングで挑戦している渡辺俊介投手はメジャーのマウンドに適しているフォームだ。独立リーグのチームと契約することが発表され、まだメジャーリーグへの挑戦は続けるので、これからも期待していきたい。


■プロフィール
タイツ先生/1963年生まれ、栃木県出身。本名は吉澤雅之。「自然身体構造研究所」所長。小山高時代は二塁手としてプレーし、2年時に県大会準優勝。広澤克実(元ヤクルトほか)の一学年後輩にあたる。野球以外のスポーツや武道を含め、体の構造に基づいた自然な動きを研究している。体のラインにフィットした服装から「タイツ先生」と呼ばれる名物指導者。ツイッター/@taitsusensei

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