「アメリカに来ると、みんな体が大きいじゃないですか。一般の人でも僕らよりもデカい人がいっぱい。そこで、力とかパワーを勘違いして肉体を大きくすることは絶対にダメ! これは断言できますね」。
これは2014年、テレビ番組(ジャンクSPORTS)のインタビューに応じた際のイチローの言葉だ。イチローがスターであり続ける要因のひとつが「ケガをしない体」。毎日、毎シーズン試合に出続けることは球界スターの必須条件だ。その「ケガの予防」にも、体重とのバランスが密接に関係しているという。
「いろんなセンサーを体は発してくれますから。ここが危ないよっていうポイントを教えてくれない体に自分でしてしまう。ケガには必ず理由があるんです」。
ここまで断言するのは、イチロー自身が体重増によって苦しめられた過去があるからだ。
「僕はアメリカに来た時、体をちょっと大きくしたんです。でも、全然動けなくなった。それが、プラス3キロ。3キロ違うと全然動けない」。
イチローにとって大事なのはむやみやたらに体を大きくすることではなく、いかに体を使いこなすか、効率よく無駄なく美しく活用するか、なのだ。
同様に、『イチローの流儀』(小西慶三/新潮社)では、イチローのこんなコメントも紹介されている。
「体を自由に動かしたり、操ったりという定義なら僕ほど恵まれている選手はいないと思います。結局、こちら(メジャー)には体は大きいのに走れないとか筋肉が邪魔してスピーディに動けないとかいう選手もいっぱいいる。体が大きい方が打球がよく飛ぶ、という次元の話ではあまりにも内容が薄いし、そこに僕は当てはまらない。体が大きいことで疲れやすかったりすることも事実あるわけでね」。
「例えば、太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)やふくらはぎを大きくするとスピードは出なくなる。スピードを維持しようと思うなら、太ももの裏側を鍛えて、ふくらはぎは太くしてはいけない」。
体重増ではなく、体の使い方を磨き上げ、自身のセンサーを研ぎ澄ますことで長く一流であり続けるイチロー。かたや、体重増でパフォーマンス向上を目指すニューウェーブたち。
もちろん、ダルビッシュや大谷はイチローよりも身長が10センチ以上大きく、骨格も日本人離れしているからこそ、体重増にも耐えうることができる、という可能性は高い。また、大谷の場合は100キロオーバーした後、キャンプで2〜3キロ落としてシーズンに臨む計画があるというから、肉体改造もまだまだ途中段階だ。
「ケガの予防」という観点でみれば、大谷は並外れた柔軟性を持ち、一方のイチローは昔から股関節が固いために「体重増」という負荷を避けている、という見方もできるだろう。
「体重増」「巨大化」が正義なのかどうか。それは今季の彼らの活躍と、向こう10年に渡って安定した成績が収められるかどうかにもかかっている。長い目で見守っていきたい。
文=オグマナオト(おぐま・なおと)