組み合わせ抽選会で1回戦の対戦相手以外に決まるものがもうひとつある。それが「選手宣誓者」だ。夏の甲子園の場合、選手宣誓を希望する主将を募り、その中から抽選で決めるスタイルだが、センバツでは出場32校の主将が全員参加して抽選を行い、宣誓者を決定する。
明文化されているわけではないが、夏よりもセンバツ大会の選手宣誓の方が自由度は高く、独創的なものが多い。特に震災以降、「3月に野球をすること、できること」への感謝、思いが込められた「名宣言」が毎年紡ぎだされている。過去4年の宣誓文を「3.11」の今日だからこそ振り返ってみたい。
「宣誓。私たちは16年前、阪神・淡路大震災の年に生まれました。今、東日本大震災で、多くの尊い命が奪われ、私たちの心は悲しみでいっぱいです。
被災地では、すべての方々が一丸となり、仲間とともに頑張っておられます。人は仲間に支えられることで、大きな困難を乗り越えることができると信じています。私たちに今、できること。それはこの大会を、精いっぱい元気を出して戦うことです。
『がんばろう! 日本』。生かされている命に感謝し、全身全霊で、正々堂々とプレーすることを誓います」
「宣誓。東日本大震災から1年。日本は復興の真っ最中です。被災された方々の中には、苦しくて心の整理もつかず、今も当時のことや亡くなられた方を忘れられず、悲しみに暮れている方がたくさんいます。
人は誰でも、答えのない悲しみを受け入れることは苦しくて辛いことです。しかし、日本がひとつになり、その苦難を乗り越えることができれば、その先に必ず大きな幸せが待っていると信じています。
だからこそ、日本中に届けます。感動、勇気、そして笑顔。見せましょう、日本の底力、絆を。われわれ高校球児ができること。それは、全力で戦い抜き、最後まであきらめないことです。今、野球ができることに感謝し、全身全霊で正々堂々とプレーすることを誓います」
「宣誓。85回を数えるこの選抜大会は、全国の多くの人たちに、夢や感動を、ときには明日へ生きる力を与えてくれました。
私たち36校の球児たちは、今、こうして、憧れの甲子園の舞台に立てることを、支えてくれた全ての人たちに感謝し、先人たちが積み上げてきた85回の歴史に新たな1ページを加えます。
そして、たくさんの人たちの絆に支えられ、掴んだこの甲子園の舞台で、最後まで決してあきらめず、全力でプレーすることにより、東北をはじめ全国の困難と試練に立ち向かっている人たちに、大きな勇気と希望の花を咲かせることを、ここに誓います」
「宣誓。これまで多くの先輩が勇気を与え続けてくれた甲子園。今、私たちは子どもの頃から憧れてきたその甲子園という最高の舞台に、最高の仲間とともに立っています。
ここに立っているのは、ふるさとの皆さんを始め、沢山の方々の支えがあったからです。その方々への感謝の気持ちを胸に、また、全国の皆さんに『高校野球を見に行こう』と言ってもらえるよう、高校生らしく爽やかに清々しく、正々堂々とプレーします。
また、自分たちの姿が日本の明日への希望となり、夢を追い求める力となるよう、これまでお互いに助け合い頑張ってきたスタンドの仲間たちと共に、最後まであきらめず力の限り全力で闘うことを誓います」
「宣誓。高校野球の全国大会が始まって100年。戦争による中断や震災など、いくつもの困難を乗り越えて、今、多くの皆さんに支えられ、大好きな野球ができることに感謝します。
グラウンドにチームメートの笑顔あり、夢を追いかけ、命輝く。
生まれ育ったふるさとで、移り住んだところで、それぞれの思いを抱きながら見てくださっている全国の皆さんに、生きていることを実感してもらえるよう、この甲子園で自分らしく精いっぱいプレーすることを誓います」
なぜ、高校野球は人の心をうつのか? その答えはひとつに絞れるはずもないが、ここで挙げた宣誓文の中に、その大きなヒント、エッセンスが含まれているのは間違いない。
「3.11」から5年後の今大会開会式では、いったいどんな選手宣誓が披露されるのか。第88回選抜高校野球大会は3月20日(日)に開幕を迎える。
文=オグマナオト(おぐま・なおと)