海の向こうメジャーリーグでは、ワールドシリーズが開幕。大いに盛り上がりを見せている。
そんなワールドシリーズ開幕の裏で、敗退したチームにまつわる「呪い」が脚光を浴びているのをご存知だろうか?
その「呪い」とは8年ぶりにプレーオフの舞台に登場したシカゴ・カブスのもつ「ヤギの呪い」だ。
カブスファンのビリー・サイアニスは、いつもマーフィーというヤギと一緒に観戦していた。それまで何も問題もなく入場できていたビリーとマーフィー。しかし、この年のワールドシリーズ4戦目、マーフィーの臭いを理由に入場を拒否されてしまう。
これに激怒したビリーは「2度とこのリグレー・フィールド(カブスの本拠地)でワールドシリーズがプレーされることはないだろう」と言い放って球場を後にした。
その捨て台詞通り、この1945年のワールドシリーズ進出以来、シカゴ・カブスは2015年の今季まで70年間もワールドシリーズへの進出を果たしていない。ワールドシリーズ制覇にいたっては、1908年以来、実に107年も遠ざかっているのだ。これが野球ファンの間で有名な「ヤギの呪い」である。
2003年、そんなカブスに呪いを払拭するビッグチャンスが巡ってくる。主砲サミー・ソーサを擁して1989年以来、14年ぶりの地区優勝を果たしたのだ。
そのまま着実にリーグチャンピオンシップまで駒を進めたカブス。そのチャンピオンシップも、フロリダ・マーリンズ相手に3勝2敗と悲願のワールドシリーズ進出と、呪い払拭まで王手をかけた。
続く第6戦も8回1アウトまで3-0とカブスがリード。誰もが悲願を確信した。
しかし、ここでも呪いがカブスを襲う。マーリンズの打者が打ち上げた三塁側フェンス沿いのファウルフライを、カブスファンがキャッチしようと手を伸ばしたことにより、左翼手がフライを取り損なってしまう。
その後、試合の流れが変わり、8点を奪われて逆転負け。第7戦にも敗れたカブスは、あとアウト5つまで迫ったリーグ優勝を逃してしまった。
それから12年、今季のカブスはリーグ3位ながらワイルドカードでプレーオフに進出。勢いそのままにリーグチャンピオンシップまでかけ上がる。再び訪れた呪い払拭のチャンスにファンも大きな期待を持った。
奇しくも1989年に公開された映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」では、2015年にカブスがワールドシリーズを制覇するストーリーとなっており、「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」の再現とも相成って、さらなる盛り上がりを見せていた。
しかし、「ヤギの呪い」は「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」をも凌駕した。カブスは、ニューヨーク・メッツに4連敗を喫し、またしても呪いに屈したのだった。
このリーグチャンピオンシップのMVPは、4戦全てにホームランを放ったダニエル・“マーフィー”。果たしてこれはただの偶然なのだろうか?ヤギの呪いの根深さを感じずにはいられない。
今季のカブスは、ジェイク・アリエタ、アンソニー・リゾ、クリス・ブライアントなど、若い力が台頭。チームは着実に力を付けている。ヤギの呪いが払拭される日は目前まで迫っている気がしてならない。
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)