広島3位 ケムナブラッド誠・高1までプロサーファーが夢だったハワイ発の剛腕
2017年プロ野球ドラフト会議で、総勢82名の選手が指名された。
2018年からのプロでの活躍に期待したい。
週刊野球太郎では、ドラフト会議の直前にインタビューした指名選手18名を特集!
プロで活躍するために戦ってきたドラフト候補と、彼らの「真価」を最も熟知している監督さんを取材した貴重な「証言」をお届けします。
今回の指名選手
広島 ドラフト3位
ケムナ ブラッド 誠
(けむな・ぶらっど・まこと)
192センチ91キロ/右投右打。1995(平成7)年6月5日生まれ、ハワイ州オアフ島出身。小・中学時代は軟式野球部でプレーしていたが、日南高で本格的に野球を始め、デビューは2年春と遅咲きで甲子園出場はなかった。日本文理大で才能が開花し、最速151キロを誇るプロ注目の剛腕に成長した。変化球はカーブ、スライダー、カットボール、チェンジアップ。
中村壽博監督の証言
★最初の印象
ケムナと同じタイミングで180センチ以上のピッチャーがたくさん入学してきました。みんながそれぞれ楽しみな存在だったので、あくまで彼もその中のひとりとして見ていました。ただ、入学当初は投げている球はそれほど強くはなくて、投げ方も明らかなアーム。バランスもバラバラでしたね。これからのピッチャーだな、というのが正直な印象です。
★失うものがなかった
2学年上に田中豊樹(日本ハム)というお手本がいたことは確かですが、競争相手でもあった同級生の存在が彼をここまで成長させてくれたと思っています。また、ケムナはチャレンジ精神が旺盛な男です。野球がうまくなりたい、いいピッチャーになりたいという願望を持って、常に挑戦を続けました。失うものも少ない、守るものがなかった。そこも大きかったのではないでしょうか。
★つかみ損ねた大チャンス
4年春の大学選手権は彼にとってのビッグチャンスでしたが、3回途中で4失点とチャンスをつかみ損ねましたね。3年のシーズンをケガで棒に振り、復帰して出場権を得るところまでは順調そのもの。ただ、一気の三段跳びで成功するほど甘くはなかったというこ
とです。初めての神宮ということもあって力が入ったのか、明らかにいつものケムナではありませんでした。
★経験不足
高校2年になって野球を始めたわけですから、投手経験も圧倒的に少ない。おそらく「ドラフト候補」と呼ばれるピッチャーの中では、一番経験が不足しているのではないでしょうか。大学選手権での降板も、原因は明らかな「経験不足」だとわかっているので、大
舞台を経験した後の、これからのケムナには期待したいですね。
★これから
とにかく日本人にはないスケール感を持ったピッチャーだけに、縮こまることなく恐れずに、今のまま思い切りのよさを忘れなければ、必ず上の世界でも成功してくれると信じています。
監督さんプロフィール
中村壽博[なかむら・としひろ]
1974(昭和49)年生まれ、福岡県出身。西日本短大付高〜早稲田大。高3夏に甲子園で優勝し、早稲田大では2年連続で日米野球の日本代表に。1999年に日本文理大監督となり、2002年に大学選手権優勝。
本人の証言
★150キロ投手の父
父はアメリカのアイオワ州で生まれ、シカゴで育ちました。高校時代は150キロぐらい投げる剛腕投手で地元の新聞などにも取り上げられていたそうです。運動神経が凄くよかったので、フットボール、野球、水泳、バスケットボールをやっていて、そうした父の
遺伝子を受け継いだことはよかったと思っています。
★遅咲きの大器
高校1年まではプロのサーファーを目指していたので、本格的に野球を始めたのは高校2年の春からです。サーフィンのおかげで肩甲骨まわりが柔らかく、肩まわりの筋肉や背筋も他のピッチャーより強く、柔らかいと思います。
★初の全国舞台
今年の大学選手権はキャリア初の全国大会ということで気負いすぎていました。本来のピッチングを完全に見失いましたね。持ち味の制球力も安定せず、リズムも一本調子になってしまいました。相手の九州産業大・草場亮太はマウンド上での余裕がありましたよ
ね。経験の差がモロに出ました。
★引きこもり
大学選手権の後は自分自身を見つめ直すために、1週間ほどふさぎ込みました。ただ、敗因を振り返っているうちに、気がつけば練習を始めていました。秋のリーグ、その先の目標に向かって、立ち止まっている時間はなかったので。
★これから
ドラフトのことはバリバリ意識しています。「ドラフトまであと何日」というように、毎日カウントダウンしているほどです。いずれは父の祖国でもあるアメリカでもプレーしたいですね。メジャーリーガーになって、家族を球場に招待したい。それが自分にとって最大の夢です。
球種に関する証言
ストレート 144 〜 151キロ
カーブ 125 〜 130キロ
スライダー 135 〜 138キロ
カットボール 145 〜 149キロ
チェンジアップ 130 〜 135キロ
カットボールの精度と、右打者にも有効なチェンジアップの状態が上がってきました。この2つの球種で左・右バッターの内角を攻めていけるのは、ピッチングにおける大きな武器になっています。(本人)
フォームに関する証言
監督
入学当初は力みが強く、腕と体が大きく離れてしまい、開きが早かったのですが、最近は上下がうまく連動してきました。その効果もあって、日本人のピッチャーでは体現できない「ストレート角」が際立ってきました。
本人
もっとも意識しているのは足の裏、重心のかけ方です。かかとの外側の部分に重心を置くイメージでフォームを作ったところ、体重がしっかりと乗るようになってきました。
グラウンド外の素顔
サービス精神が旺盛なのか、投げかけた質問に対して毎回10倍の内容で返してくるのがケムナという男だ。時には「そんなことまで喋って大丈夫?」と、こちらが心配してしまうほど、自らの内面を隠そうとはしない。周りを幸せな空気で包み込む天性の陽気さは、4歳まで過ごしたというハワイの太陽のようだ。大学選手権後にはふさぎ込んでしまったというが、そんな姿はまるで似合わない。
本稿は雑誌『野球太郎 No.024 2017ドラフト直前大特集号』(2017年9月23日発行)に掲載された人気企画「ドラフト候補&指導者マンツーマン・インタビュー」から、ライター・加来慶祐氏が執筆した記事をリライト、転載したものです。
取材・文 加来慶祐
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