「あれは打てない……」
4月15日の青山学院大vs駒澤大1回戦の試合後、指導歴27年を誇る青山学院大・河原井正雄監督がそう白旗を揚げたのが、駒澤大の3年生左腕・今永昇太だ。
開幕カードとなった拓殖大戦の1回戦と3回戦を2試合連続完封。好調なスタートを切って迎えたこの試合で、今永はまさに圧巻の投球を見せた。
とにかく青山学院大・各打者のバットの芯にボールが当たらない。いわゆる“いい当たり”を飛ばしたのは数えるほどしかなかった。結果として被安打5本、27個のアウトのうち、奪三振が10個、フライアウトが13個とゴロアウトはわずか3つだった。
「ボールの上を叩けという指示を出したんだけど、それでも当たらないということは、それだけ球が伸びてきているんでしょう」
河原井監督はそう分析するしかなかった。
東都大学リーグ初勝利から一気に6連勝、チームの準優勝に貢献した昨春。だが、最優秀投手賞を獲得した春から一転、秋はわずか1勝。チームは最下位に沈み、入替戦に回るというどん底を味わった。
だが、そんなどん底の時期に飛躍のきっかけを掴んだ、と語るのは某球団のスカウトだ。
「“投球術”を覚えましたよね。入替戦からカーブでストライクを取るようになった。いや、重要視するようになったと言った方がいいのかもしれません」
秋のシーズン、徹底的に今永を研究してきた他校に痛打を浴び、その敗北による更なる焦りがより投球に力みを与えていた。
だが1部残留を賭けた東洋大との入替戦では、1回戦を3安打15奪三振で完封すると、2回戦では8回、9回を無失点に抑え、1部残留を決めた。
「入替戦の前まではストレート、スライダー、それにチェンジアップを多投し、カーブはほとんど使っていませんでした。でも、カーブを使うようになったことで、 ストレートを高めで上手く使えます。あと今年になって外のストレートの制球も良いですね」(同スカウト)
こうなってくると打者が“いいあたり”を飛ばすのは至難の業となってくる。
また、技術的なことに加え、昨秋に大きな苦しみを経験したことで、より上手く自分自身をコントロールできるよう、オフシーズンの間に努めてきた。
「(このオフシーズンは)調子の波をなくすように連日投げ込み、その中で今日は何が良くて、何が悪いのかを考えるようにしていました」(今永)
例えば、開幕戦となった拓殖大1回戦では、序盤に投球がやや乱れた。すると、試合途中から右足の上げ方をより勢いよく上げるように修正するなど、これまでには無い“柔軟性”を見せた。初回の1得点のみで勝った青山学院大戦では「1-0こそ、投手が光る試合だと思って投げました。(連続無失点記録は)いつか止まるものだと思うので、それを楽しんでいたいです」と堂々と話し、その姿はエースそのもの。
開幕2カード連続で勝ち点を奪った駒澤大。東都ならではの過酷さを体現する“入替戦”を経験し、より頼もしくなった左腕がチームを25季ぶりの優勝に導くのか?
次戦は戦後史上初の6連覇を目指す亜細亜大戦(4月29日第1試合の予定)。今秋ドラフト上位候補右腕・山?康晃(亜細亜大)との対戦が今から待ち遠しいところだ。