里崎氏は2004〜2009年の6年間、ボビー・バレンタイン監督の下でプレー。その際、ラミレス監督同様に「ベンチからの投球サイン」が何度かあったという。
「でも、僕は呼ばれても向きません。『サト!』ってボビーから呼ばれるんですけど、向かない。『聞こえませんでした』といってごまかしてました(笑)」
ただ、この「ごまかし」は、本拠地・千葉マリン以外では難しかったという。
「マリンは、ベンチからホームまで遠いからできたんですよ。一番困るのが東京ドームと神宮球場。このふたつの球場で『サト!』って呼ばれると……聞こえるな、と(笑)。だってすぐそこにいるんですから! これはごまかすのは無理。でも、ベンチから出たサインには首を(横に)振っていました」
自分が納得できなければ、たとえ監督からの指示であっても受け入れない。確固たる信念、リード論が里崎氏にあったからだ。この「ボビーvs.里崎」の配球を巡る論争については、自著『非常識のすすめ』に詳しい。
《ボビーとは、口論も絶えなかった。ボビーは配球については口うるさかった。特に弱点を攻めることに関しては神経質になっていて、「なぜ、そこを攻めないのか」「なぜ、そんな打たれるコースにばかり投げさせるのか」と怒りをあらわにした》
ただ、相手にとって弱点でも、その弱点に投手が投げられるかどうか、そして投げることができても効果があるかは別問題だという。
《これは僕の16年間の経験則で得た考え方だが、投手は一人ひとり、球速が違えば、持ち球が違うし、技量が違う。それなのに、みんな横一線で一緒のことを求めたり、指示したりすることには無理がある。それをやらせるなら、最低限のスキルを身につけた上でなければ、意味はなくなる》(里崎智也著『非常識のすすめ』より)
だからこそ、「ラミちゃんが邪魔しないかが心配」という冒頭の言葉につながるのだ。
もっとも、里崎氏が監督の指示を無視したり、言いたいことを直言できていたのは、バレンタイン監督と固い信頼関係で結ばれていたからこそ。バレンタイン監督がロッテを退任する際には「自分の好きなことを言って、ボビーには迷惑かけたかもしれないけど、ボビーのおかげで、ここまで来れたし、日本一にもなれた。ボビーと一緒にできてよかった」と言葉をかけ、改めてお互いを讃えあったという。
そもそも、しがらみを嫌うのが里崎流。先輩後輩といった日本流縦社会、義理人情に左右されない外国人監督ならではの利点についても「プロ野球2016シーズン開幕前夜祭」で触れていた。
「外国人は義理人情に左右されず、好き・嫌いで起用しないのがいいですよね。ボビーでいうと、『俺のためにがんばって結果を出してくれる人』が好きなんです。それが順位になり、(監督自身の)年俸になって返ってくるから。そいつが好き嫌いじゃなく、『今日この試合で俺のために打ってくれるのは誰なのか?』で、打順も決まるんです」
今回、ラミレス監督が「ベンチからの投球サイン」を示唆したのは、新人の戸柱恭孝をレギュラー捕手として抜擢したからでもある。そしてこの起用こそ、関係性やただの「好き・嫌い」とは関係ない、「俺のためにがんばって結果を出してくれる人』と期待しての起用であることは明らかだ。この点に関しては里崎氏も、「彼でいく、という気持ちもわからんでもないですね」と認めていた。
昨季のDeNAは抑えの山崎康晃の活躍こそ目立ったものの、2ケタ勝利投手はゼロ。先発陣を中心に投手陣の立て直しは急務だ。そのための捕手・戸柱抜擢であり、「ベンチからの投球サイン」プランのはず。今後サインがベンチから繰り出された際に、戸柱がどのように対応するかも含め、ますます注目していきたい点であるのは間違いない。
上述したように、解説者になっても言いたいことを躊躇なく発言するのが里崎智也氏の強み。外国人監督同様、しがらみや関係性とは無縁の立場からの直言・暴言にはファンからの注目度も高い。解説者としてコメントすれば、その発言がすぐにネットニュースとして話題に。好奇心おう盛な性格から、解説者以外の仕事にも積極的に挑戦している。
今年からは、本記事でも紹介した「乾杯!ほろ酔いプロ野球部」の部長にも就任。4月21日には仁志敏久(元巨人ほか)とのトークイベント「里崎智也のプロ野球語り呑み」も予定されている。仁志もまたベイスターズOBの一人として、ラミレス監督にモノ申したいことがあるはずだ。詳しくは「乾杯!ほろ酔いプロ野球部」を運営する「部活DO!」のホームページ(http://bukatsu.hikaritv.net/campaign/0014/)でチェックを!
また、来週から里崎智也氏への密着インタビューを掲載予定。引退後の解説者生活について、プロ野球の問題点、プロ野球中継の課題など「NGなし」で語り尽くしてくれた。こちらもぜひ、注目していただきたい。
文=オグマナオト(おぐま・なおと)