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“161球”が阪神・藤浪晋太郎の今後を暗示!? 191球、209球を投げた男たちのその後


 オールスターゲームを終え、プロ野球は18日(月)から後半戦へと突入する。が、その前に振り返っておきたいことがある。「藤浪晋太郎の161球」だ。

 7月8日の広島戦(甲子園)で初回に3失点。最終的には8回を投げ8失点。途中、何度も交代のタイミングはありながら、「今日は何球投げようが、何点取られようが最後まで投げさせるつもりだった」という金本知憲監督の意向で、8回161球も投じたことはすでに大きな物議を醸している。

 金本監督の起用法についての賛否や是非(賛や是があるとも思えないが)は一旦、置いておこう。

 この「161球」で想起した、ふたりの伝説的投手について本稿では触れていきたい。

野茂英雄 メジャー移籍の布石になった191球完投勝利


 平成の世になってすでに四半世紀以上。この間、藤浪以上に投げた大エース、といって真っ先に思い出すのが1994年の野茂英雄だ。

 1994年7月1日、西武戦のマウンドに立った野茂。三振の多さだけでなく、四球の多さでも知られていた野茂はこの試合でも立ち上がりから制球に苦しみ、なんと毎回の16四球。これは個人としては今なお、プロ野球記録だ(ちなみに史上2位の1試合14四球も野茂)。

 それでも、監督の鈴木啓示は野茂を降板させなかった。9回を投げ、191球。うち、半分以上の105球がボール球。そんな状況でも散発の5安打で3失点に抑え、勝利投手になってしまうのが野茂のすごさともいえた。

 野茂の球数の多さ、において象徴的に語られるこの試合。だが、鈴木啓示が監督に就任した1993年以降、180球以上を投げたのはこれで3度目だった。その蓄積があっての191球。代償は高く、野茂はとうとう右肩を痛めてしまう。夏場以降は2軍暮らしとなり、1990年のルーキーイヤー以来続けていた最多勝&最多奪三振のタイトルも、この年は逃すことになる。

 野茂英雄と鈴木啓示。ともに日本プロ野球史が誇る偉大な投手であるにもかかわらず、その特徴は対照的だ。トルネード投法の豪快なフォームとは裏腹に、最先端のトレーニング技術を積極的に取り入れていた野茂。一方、「投手は走ってなんぼ」の昔ながらの練習法でNPB通算4位の317勝を挙げた鈴木。監督になってからも「死ぬまで投げろ」の保守的な野球哲学は変わらなかったという。

 ましてや鈴木は、史上最多の「無四球試合:78試合」を誇るコントロールのよさでも知られていた。それだけに、野茂の制球難は受け入れることができなかった。

 こうして、確執が決定的になった野茂と鈴木。球団への不信感も募った結果、野茂はこの翌年、メジャー挑戦へと舵を切ることになる。

◎木田勇 日本プロ野球最多投球数209球の悲哀
 藤浪の161球、野茂の191球以上に投げた男。それが、1983年9月21日の日本ハム・木田勇だ。

 この試合で木田は、西武相手に“209球の完投負け”。1試合にひとりの投手が費やした球数の史上最多記録(※9イニング内)であり、今後も決して破られることのない(破ってはいけない)アンタッチャブル・レコードのひとつだ。

 木田勇といえば、社会人屈指の好投手として活躍し、1978年のドラフトでは3球団が競合指名。にもかかわらず、指名権を獲得した広島入りを拒否した人物だ。翌年のドラフトでも3球団が競合し、今度は日本ハムが指名権を獲得。“不本意ながら”入団したことで知られている。

 プロ入り前から注目を集めてしまった木田。それが刺激になったのか、ルーキーイヤーになんと22勝。225奪三振、防御率2.28・勝率.733の成績で「最多勝」「最優秀防御率」「最高勝率」の投手三冠タイトルを独占。新人王とMVPを同時受賞は史上初めての快挙だった。

 だが、結果的に木田のキャリアハイはこのルーキーイヤー。翌年は10勝10敗。以降、二ケタ勝利は一度もなかった。そんな木田の落日ぶりを端的に示した投球こそ、入団4年目の「209球」だったともいえるのだ。

藤浪が“一流の”プロ野球選手になるために


 さて、藤浪晋太郎だ。野茂のように、ここから一気にメジャー挑戦、とはならないだろうが今後の動向が心配でならない。入団以来、3年連続で二ケタ勝利を挙げてはいるものの、かつての木田勇のように「最初だけはよかったのに……」とならないことを祈るばかりだ。

 藤浪といえば、大阪桐蔭の1年生時、西谷浩一監督との交換ノートのなかで将来の目標を訊かれた際にこんなコメントを返したという。

「“一流の”プロ野球選手になりたい」

 全国から逸材が集う大阪桐蔭。当然、「プロ野球選手になりたい」と書く部員は大勢いたが、「一流の」とつけたのは藤浪が初めて。それほどまでに目的意識が高い人物だったからこそ、3年時の春夏連覇につながったのだ。

 一流であるためには何が必要なのか? どう振舞うべきなのか? 今、まさに藤浪の真価が問われているのはいうまでもない。


文=オグマナオト

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