プロ野球はセ・パ交流戦が終了。ペナントレース全143試合のおよそ半分にあたる70試合ほどを消化した。ここまでの戦いぶりを見ると、開幕当初の予想以上に復活、ブレイクした選手、そしてついに覚醒した怪物たちもいる。
そんな“いい意味”で期待を裏切った選手たちを取り上げ、今シーズン、彼らが実力を発揮できている理由を本誌『野球太郎』の持木秀仁編集長、カバディ西山に聞く。
まずは復活組から。今シーズン序盤からエース級の働きを見せ、みごとに復活を遂げた今永昇太(DeNA)と大野雄大(中日)をどう見ているのか。
──今年、今永と大野の両左腕がここまで好調です。
カバディ西山:今シーズンの今永はストレートが走っていますね。ストレートで空振りをとれています。だからこそスライダー、チェンジアップといった変化球が生きているのではないでしょうか。
──変化球を生かすにもストレートが重要ですからね。
カバディ西山:あと今永は2016年がルーキーイヤーですが、2017年に日本シリーズまでフル稼働しました。そのため昨シーズンが実質的な“2年目のジンクス”というか、反動が出たのではないでしょうか。
──たしかに今永は1年目から活躍していましたが、本格化したのは2017年ですね。
持木:また、DeNAは隔年で活躍する選手が多いですよね(笑)。今永以外にも濱口遥大や井納翔一とか。今シーズン2年目の東克樹もそのパターンにはまるかもしれません。
──大野はどうでしょう?
カバディ西山:大野も今永同様にストレートがいいときに戻ったのが大きいですね。
持木:与田(剛)監督となったことで、チームの雰囲気も変わったのではないでしょうか。それが大野にとってはいい影響を与えた、と。
カバディ西山:大野は佛教大時代に大学選手権で好投し、大学日本代表の候補に入ったんですが、最後は世界大学野球選手権のメンバーに残れませんでした。その理由の一つに連投した日の成績が悪かったということがあるんです。
──代表戦含めて大学野球は連投がありますね。
カバディ西山:そうなんです。大学野球では連投ができないとなかなか厳しいものがあります。ただ、プロで先発をやる分には関係ありません。
持木:あと高校時代までさかのぼると、大野は京都外大西高時代は控え投手だったんですよ。だから、よく言うと使い減りしていない。でも、悪く言うとエースとしての調整や思考を磨く点では充分ではなかった。
──なるほど。アマチュア時代にエース扱いを受けるのは大きいものですか?
持木:エースと2番手では大きな違いがありますね。エースであれば、勝ち上がるために1試合、1大会トータルで力を発揮するように考えなければなりません。2番手以降だと、トータルよりもその場その場で力を発揮しなければならない場面が多いはずです。その経験値が大学までは少し足りなかったのではないかと。
余裕、力の配分という意味では、大学からプロにかけて試行錯誤したのかも知れません。与田監督に変わって、今年はエース格の扱いを受けて、責任を持って調整できているのが好影響に転じているのではないでしょうか。
今永、大野ともにストレートに威力が戻ったというのが大きな要因なのは間違いなさそうだ。大野の復活については、アマチュア時代の経験にまで踏み込んで考察できたことは興味深い。
──続いてはブレイク組に話題を移したいと思います。阿部寿樹(中日)がやけに打っているのですがどうでしょうか。
カバディ西山:『野球太郎No.031 2019夏の高校野球&ドラフト大特集号』に中日・正津英志スカウトのインタビューを掲載しているのですが、そこで阿部のメンタルについて「ネガティブな面がなくなってきた」とおっしゃっていました。チームの雰囲気が良くなり、思考が変わったことが大きな要因と言えそうです。
持木:阿部は落合(博満)GM時代の選手ですが、落合GMは一般的に言われる「社会人=即戦力」という概念を持っていなかったのではないかなって思いますね。
──社会人出身であってもプロ入り後に育成し、数年後に華を開かせるイメージを持っていた、ということでしょうか?
持木:はい。それが今シーズン、入団4年目での活躍につながっているのではないかと。
カバディ西山:ただ、「社会人出身の選手でも育てる選手、即戦力ではない」という落合さんの思いが現場と共有できていなかったのかもしれません……。ですが、与田監督になり、なにかが変わったのかなと。正津スカウトの話にもありましたが、方針を共有しやすくなったのが大きいのでしょうね。
──投手では育成上がりの榊原翼(オリックス)がローテーションに定着しました。浦和学院高時代ってどうだったんでしょうか?
カバディ西山:これといった特徴はなかった投手なんですよ。それが体重の増加とともに剛球投手へ変貌しましたね。
持木:榊原は千葉の銚子出身ですが、軟式ではそこそこ有名だったんです。それなのに千葉の高校ではなく、わざわざ埼玉の浦和学院高へ入学したじゃないですか。その時点でハングリー精神があるんですよね。だから育成でも迷わずに入団。「プロ入りさえできたら後はなんとかする」という気持ちが強かったんだと思います。榊原にとっては、高校時代からプロ野球は憧れの場ではなく勝負の場だったんでしょう。
──千葉にも強豪校はたくさんあるなか、わざわざ埼玉に行くというのは心構えからして違いますからね。続いて床田寛樹(広島)はどうでしょうか。
カバディ西山:中部学院大学時代の印象はほとんどないですね。もちろん、名前はあがってましたけど。今年のピッチングで言うと、右打者の外に落ちるチェンジアップ系のボールがポイントだと思います。空振りなり、凡打に打ち取れればいいですが、甘く入ると打たれる。ストレートとスライダーに次ぐ球種の出来が結果を左右している印象です。
持木:広島は軸となる日本人左腕がいなかった事情があって、複数の若手投手をお試しで登板させていますよね。そのなかで高橋昂也や塹江敦哉あたりに育ってほしかったんでしょうけど、昨シーズン、彼らは故障などで一本立ちできなかった。そこで今シーズンは床田起用されて、うまくハマった感じです。本来であれば塹江が出てこなきゃいけない存在なんですけど……。
ブレイク組の阿部、榊原、床田は、いずれもプロ入り前にひときわ目立つものはなかったようだ。しかし、これだけの活躍をしているということは、多くの選手にチャンスがあるということ。また、強いメンタルがあればアマチュア時代に無名でもプロ入りすれば、なんとでもなるということでもある。
最後に聞くのは覚醒した(と思われる)怪物たちだ。
──現在、打点王争いのトップを走る村上宗隆(ヤクルト)はどうでしょう?
持木:正直、ブレイクにはもう少し時間がかかると思っていました。早くて4年目に開花した山田哲人(ヤクルト)くらいの成長曲線を描くイメージでしたね。
──山田の1年目は公式戦では1軍での出場がなく、2年目も26試合のみ。4年目に143試合に出場して打率.324、29本塁打とブレイクしました。
持木:あと、村上は九州学院高時代の最後は捕手としてプレーしていましたが、プロ入り後は内野手です。もちろん不安定な守備を改善するために守備練習は必要ですが、一般的に捕手と比べるとその時間は少ないはずです。
──つまり、それだけ打撃練習に時間をかけられるようになった。
持木:そうですね。かなり大きいと思います。
カバディ西山:あとはヤクルトの方針もあるのではないでしょうか。エラーしても怒られない、とまではいかないでしょうが、多少は目をつむって、打つのも守るのも細かいことは言わずに、まずは育てよう、というチーム全体での意思が見えますよね。
──そのなかで、必要なときには首脳陣に代わって青木(宣親)がベンチ内で注意することがあったように、うまく連携が取れてそうです。これもチームの雰囲気ということなのかもしれませんね。最後になりますが、ドラフト時に“怪物”“モノが違う”との評判だった有原航平(日本ハム)がついに覚醒したのかと思うのですが。
持木:菅野(智之/巨人)レベルの期待値がありましたよ。15勝くらいを毎年するような。今シーズンはそのポテンシャルを発揮してきましたが、でも、早稲田大時代に期待された成績からしたら、まだまだ物足りないですよね。
カバディ西山:有原はアマチュア時代からですが、突如として試合のどこかで1イニング崩れるイメージです。被本塁打数が多く、そこが改善されればもっとよくなりそうなので、さらなる覚醒を期待したいところです。
今回は復活、ブレイクした選手、覚醒した(と思われる)怪物について『野球太郎』の持木編集長、カバディ西山に聞いた。ドラフト情報に強い『野球太郎』らしくアマチュア時代から選手を見続けてきただけに、見立てにつても引き出しが豊富。現在と過去を結びつけることができるのは心強い。これからもアマチュア時代と現在を結びつけながら、注目の選手を探るトーク企画をお届けしたい。
取材・文=勝田聡(かつた・さとし)