しかし、最初からすべてが思い通りに進んだわけではなかった。
特に智辯学園時代には、試合に負けると「学校を潰す気か!」と理事長から激しく叱責され、いざ甲子園に出場しても、かけられたのはねぎらいの言葉ではなく「いつ優勝するんだ?」のひと言だった。
1994年に智辯和歌山でセンバツ優勝を遂げたときにも、「甲子園には2本の旗がある」と、常にさらなる結果を求められた。
このような、常に逆風が吹き荒れるような状況でも戦ってこられたのは、自らを「ナニクソ」と奮い立たせてきたからだという。
1985年に智辯和歌山の監督に就任した高嶋はチームを全国屈指の強豪に育て上げる。1987年の夏を皮切りに、春のセンバツに11回(21勝10敗)、夏の甲子園に21回出場(35勝19敗)と勝ちまくった。3度の優勝はいずれも智辯和歌山で成し遂げたものだ。
特に2000年夏の甲子園を制したチームは「史上最強打線」として名高い。1985年のPL学園が達成した大会通算10本塁打を塗り替える11本塁打を放ち、大会通算100安打という史上初の3ケタ安打を記録。猛打の智辯和歌山の名を轟かせた。
もちろん県内でも無類の強さを発揮し、1996年から2000年にかけては5年連続で、2005年から2012年にかけて8年連続で和歌山を制して、夏の甲子園に出場。和歌山の高校野球界を圧倒してきた。
現在、高嶋の「圧倒的な強さ」はやや影を潜め、甲子園に出場しても成績は芳しくない。また、昨年のセンバツから3季連続で甲子園を逃している。
だが、今年のチームは春の和歌山県大会で優勝。「10点獲る」と目標を掲げて臨んだ決勝戦では、その目標をクリアした。近畿大会では大阪桐蔭に3対6で敗れたが、夏に向け、高嶋は仕上がりに手応えを感じているようだ。
また、1997年の夏の甲子園で優勝したときの主将・中谷仁(元阪神ほか)がコーチに就任。プロを知り、甲子園で勝つことを知る人材がチームに加わったことも大きい。今夏、圧倒的に強い智辯和歌山を率いて高嶋が甲子園に帰ってくるか。楽しみに追いたい。
■佐々木順一朗(仙台育英)
全国レベルの強豪として宮城の高校野球界をリードしてきた仙台育英と東北。かつて、東北時代のダルビッシュ有(レンジャーズ)甲子園で準優勝したときに「(宮城大会で)仙台育英との決勝戦に勝てたからここまで来られた」と言ったように、ともにライバルと認めあう仲だ。
2007年以降の甲子園出場歴を見てみると、東北の4回(春:2回、夏:2回)に対し、仙台育英が10回(春:4回、夏:6回)とダブルスコア。また2015年夏の甲子園で仙台育英が準優勝を果たすなど、近年は仙台育英に向かって追い風が吹いている。
そんな上げ潮の仙台育英を率いるのが、1995年秋に監督に就任した佐々木順一朗だ。
1959年に宮城で生まれた佐々木。高校はライバル校である東北に進学し、2年夏と3年春にエースとして甲子園出場を果たした。一方で3年夏は、仙台育英に敗れて甲子園を逃している。
卒業後は早稲田大からNTT東北を経て、1993年に仙台育英のコーチに就任。1995年8月に恩師の竹田利秋から監督を継いだ。2001年に一度監督の座を離れるが2003年に復帰。これまでに春に6回、夏に12回、チームを甲子園に導いている。
「新たなる名将」という風格を漂わせる佐々木だが、指導は「本気になれば世界が変わる」がモットー。
自分に対して甘い練習では技術や体力は身につかない。やらされている練習では、数や時間をこなすだけになりがちだ。故に、選手たちには「自分でやる練習」を促している。
自主性を重んじた結果、プロに進んだ教え子も多い。近年は上林誠知(ソフトバンク、2013年4位)、2015年夏準優勝の主力・平沢大河(ロッテ、2015年1位)、佐藤世那(オリックス、2015年6位)といった話題の選手も輩出。
今年も長谷川拓帆(3年、投手)、佐川光明(3年、投手・外野手)、西巻賢二(3年、遊撃手)と有力選手が揃っていることから、宮城大会優勝候補の最右翼であることは明らかだ。センバツに続き夏の甲子園に出場となれば、好成績が期待される。
東北地区は甲子園での優勝経験のない唯一の地区。これまで青森の三沢、光星学院(現八戸学院光星)、秋田の秋田中(現秋田)、宮城の仙台育英、東北、福島の磐城が夏の決勝で敗れてきた。
今夏、佐々木が東北地区悲願の優勝旗を、白河の関を越えて運んでくると期待するファンは多い。
高嶋監督は71歳、佐々木監督は57歳。近年は新進気鋭の若手監督が増えているが、ベテランの名将はまだまだ盛んだ。
また、甲子園のベンチには、帽子からのぞく白髪交じりの頭髪が人生を感じさせる総大将の姿がよく似合う。
高嶋監督も佐々木監督は今年の夏も甲子園に出場して、自身の記録を伸ばしながら、暑い夏をさらに熱く盛り上げてほしい。
(※本稿は本誌『野球太郎NO.023 2017夏の高校野球&ドラフト特集号』に掲載された以下の2つの特集記事を参照、引用しています。「平成終われど平成の王者はまだ終わらない!」(取材・文=谷上史朗)、「宮城の60年ライバル物語 東北vs仙台育英」(取材・文=高橋昌江)。本誌『野球太郎』の記事もぜひご覧ください)
文=森田真悟(もりた・しんご)