誰? この青年実業家……と思ったら高橋由伸監督でした。
このオフ、注目の的となっているのが読売ジャイアンツの新指揮官、高橋由伸監督の動向だろう。突然の現役引退&監督就任から息つく暇もなく、秋季キャンプにスーツ姿で登場。爽やかな青年監督像を披露したことも記憶に新しい。
ではここで問題。なぜサッカーなど他競技の監督はスーツ姿が多いのに、野球の監督は決まってユニホーム着用なのか?
実はこれ、ルールでもなんでもなく、ただの「慣習」なのだ。
野球が競技としてその歩みを始めた当初、チームに「監督」は存在せず、チームリーダーやいわゆる「主将」にあたる人物が指揮を執っていた。つまり、かつてはみんな「プレイングマネージャー」だったわけだ。
当然、選手兼任だからユニホーム姿だ。その後、選手を辞めてもユニホーム姿のままチームを率いるようになり、そこから「監督」というポジションが確立されていった……と考えられている。現代においても監督がユニホームを着ているのは、この歴史的な流れを受け継いでのことなのだ。
実際、『公認・野球規則』では、ユニホームを着なければならないのは「同一チームの各プレーヤー」と記載。監督に関してのユニホーム着用の規定はなく、スーツ姿でベンチ入りしてもなにも問題はない。
球史をさかのぼると、過去にはユニホームではなくスーツ着用でダッグアウトに陣取った指揮官がいた。もっとも有名な事例がフィラデルフィア・アスレチックスのコニー・マック監督だ。
コニー・マックはアスレチックスの監督をなんと50年間(1901年〜1950年)、85歳まで務めたMLB史に輝く名物監督だ。監督通算3776勝はMLB史上最多。日本人にはベーブ・ルースやルー・ゲーリッグらが来日した1934年の日米野球での「メジャーリーグ選抜チーム」監督として有名だ。
そしてもうひとつ、コニー・マック監督が異彩を放っていたのが、50年間のアスレチックスの監督生活で、一度もユニホームを着用しなかったこと。長身で痩せていたためにユニホームが似合わなかったから、というのがスーツ着用の理由といわれている。だが、50年間の監督生活において「スーツだから」という理由で退場になったりすることは一度もなかった。
さて、ここでもう一度「高橋由伸新監督」に話題を戻そう。
就任時の記者会見で、読売ジャイアンツの白石興二郎オーナーはこんなコメントを残していた。
「原野球を継承し、新しい風を吹き込んでくれることを期待している」
もし、本当に「新しい風」を期待するならば、今こそ日本球界でも「スーツ監督」が誕生してもいいのではないだろうか。青年実業家のようなヨシノブ監督の立ち姿は、それだけで女性ファンの心を掴み、ビジネスマンの好感を呼び、球界に新しい風を巻き起こす気がするのだが。
「球界の紳士たれ」を提唱する球団にこそ、スーツ監督は似合うはずだ。
文=オグマナオト(おぐま・なおと)