前号「最後の夏に念願を叶えた最速152キロの剛腕」
梨田昌孝監督2年目の来季、上位を狙う楽天が単独1位で指名した即戦力投手は「高校BIG4」の一角・横浜高校のエース。負けるたびに成長を遂げた右腕は「打たれないストレート」を追い求める鍛錬の日々を過ごした。
学校の敷地内にある横浜の野球部寮。藤平が住んでいた部屋の壁には、1枚の目標設定シートが貼ってある。9マス×9マスからなる「マンダラート」と呼ばれるシートで、日本ハムの若手教育にも使われている。大谷翔平(日本ハム)が花巻東時代から取り組んでいたことでも話題に上がった。
シートの真ん中に目標を記し、それを取り囲む8マスに目標を成し遂げるためのポイントを書いていく。常総学院に敗れた後、藤平が書いた言葉は「ドラフト1位」だった。自身がドラフト1位のレベルになれば、甲子園出場もおのずと近づいてくると考えた。
藤平尚真の決意と勤勉さが見てとれる「目標設定シート」。81マスからなるシートの真ん中には目標である「ドラフト1位」の文字が。ドラフト1位に足る選手になれば甲子園出場も叶うはず、という思いも込められている。
ドラフト1位になるために挙げた8つのキーワードは、「コントロール」「キレ」「スピード 高3夏155km/h」「変化球」「運」「人間性」「メンタル」「体づくり」。すべてを同時並行で求めていくなかで、冬場に特に力を入れたのは肉体改造だった。
1日6度の食事とウエートトレーニングに励み、体重増に成功。2年秋は75キロだった体重が、3年春には82キロに増加。太もも回りも57センチから64センチにアップした。
フォーム改造にも着手。インステップ気味だったステップを直すために、平均台の上でシャドウピッチングを繰り返した。コントロールを磨くために、横浜伝統の「球当て」にも時間を割いた。ホームベースの角に球を置き、スライダーやフォークでこれを狙っていく。ストライクからボールになる決め球の変化球の精度を上げた。
また、技術以外の部分にも今まで以上に気を配るようになった。マンダラートでいえば、「メンタル」「人間性」「運」のところだ。「技術の部分は、ピッチャーとして当たり前にやっていくこと。同じように大事にしていたのは人間性の部分。まだまだですけど、挨拶・礼儀・返事の部分は横浜の3年間で成長したと思っています」
マンダラートを見ると、「目標がその日その日を支配する」「人生の勝利者になる」と、渡辺元智終身名誉監督からもらった言葉も書かれている。
「正直、中学の時から結果を残していて、U-15にも選ばれて、『自分には実力があるから大丈夫』という生意気な気持ちで高校に入ってきました。でも1年秋は慶應義塾、2年夏は決勝で東海大相模、秋には関東大会で常総学院に負けて…。それまでも努力をしていたつもりだったんですけど、“つもり”で終わっていたのかな。もっと努力をしなければ甲子園には行けないし、プロには入れない。絶対に、もうこれ以上できないと思えるまで努力すると決めました」
印象に残っているのは、2月にグラウンドを訪れた時、フリーバッティングを待つ合間にウエートトレーニングで使うプレートを指先で持ち、スクワットをくり返していたことだ。わずかな時間でも無駄にしないという意識の高さを感じ取ることができた。
「3年夏は履正社に負けましたけど、自分ができる最大限の努力はやり切れた。だから、夏の結果に関しては、悔いは残っていません」 こう言い切れる選手はなかなかいないだろう。
次号「作新学院・今井からの刺激」
(※本稿は2016年9月発売『野球太郎No.021 2016ドラフト総決算&2017大展望号』に掲載された「28選手の野球人生ドキュメント 野球太郎ストーリーズ」から、ライター・大利実氏が執筆した記事をリライト、転載したものです。)