file#002 川端崇義(外野手・オリックス)の場合
◎川端崇義はルーキーじゃない!
今シーズン最下位に沈んだオリックスで、ルーキーながら外野のレギュラーに定着した川端崇義。昨秋、ドラフト8位指名でひっそりとプロ入りした社会人出身の27歳ということで、無名な選手? と思いきやとんでもない! 少なくとも社会人野球での活躍からすれば、もっと上位で指名されてもおかしくなかった選手である。
◎国際武道大時代は“バットの長い小さな選手”?
私が初めてそのプレーぶりを間近に見たのは、川端が国際武道大2年だった2004年春、千葉県大学リーグの試合だった。だが、川端が目的だったわけではない。当時は東京情報大の伊志嶺忠(楽天)ほか、リーグに数人の注目選手がいて、彼らのプレーぶりをチェックするために千葉工業大の茜浜球場に足を運んだのだ。
実際、当時の川端はどうだったかというと、ドラフト視点で言えば、それほど目に付く選手ではなかった。東海大相模の4番打者として02年夏の神奈川大会では決勝まで進んだ選手だけあって、打席でもいい雰囲気を発してはいたが、なぜか体が小さく見える。大学野球によくいる「本来は中距離タイプ」の典型で、将来は社会人の好選手になる姿はイメージできても、プロとしてのイメージは浮かんでこなかった。
そんな第一印象だったせいか、2カ月後に出場した大学選手権でも、国際武道大では川端よりもトップを打つ中村一生(オリックス)の方が目に付いたし、2年後に再び大学選手権に出定して活躍したときも、大きく印象は変わらなかった。
◎社会人で“コンパクトなのに力強い選手”へ
それが豹変したのは、社会人のJR東日本に進んでからである。まず、大見得切ったガキ大将が長い竿を振り回していたかのような長いバットが、えらく短くなった。なんで? 体が太くなったから? 確かに体型は全体的に野太くなったが。さらに、スイングが随分とコンパクトになっているのに、打球は随分と力強い。大変身である。
また、打順の方も1番や3番に入るようになったことで、今まではあまり意識していなかった走塁面の積極性も目につくようになった。過去の4番バッターのイメージが払拭され、三拍子揃った選手としてイメージが再構築されていく。ただ、やはりプロとしてはどうなんだろう? それは引き続き引っかかった。なにかもうひとつ特筆したものがあればいいのだが…。
◎2008年にドラフト候補になったが
とはいえ、社会人1年目から試合で活躍した川端は、2年目の08年にはドラフト候補として名前が挙がるようになっていた。当時の『野球小僧』編集部でも、ドラフト特別号恒例の「ドラフト候補&監督直撃インタビュー」にて、川端の取材を行っている。そのとき、担当編集として同行した私は、本人がプロ入りに強い想いがあることを話の節々から直接感じとった。
そして、その直後に行われた都市対抗の大舞台で、川端は2試合連続本塁打を放つ。勝負どころで一発が打てるところを見せたのだ。この活躍により、私は川端のプロ入りはほぼ確定したとさえ思ったほど、勝負強さが目を引くバッティングだった。
ところがフタを開けると、この年のドラフトで川端の名前は挙がらなかった。さらに翌09年、翌々の10年も…。
ええ? 何で!? プロ球団のニーズと指名順位、つまり予算の関係だろうか? 社会人チームの場合、主力にまで登りつめた選手を送り出すとなれば、それなりの順位でないと選手本人にもチームに対しても失礼に当たるので、指名を回避する傾向にあるという話を聞いたことがある。川端もそのスパイラルにハマってしまったのか。
もちろん、本人はその後もグラウンドでそれまでと同じように勝負強いバッティングを続けていたが、時期を逸した今、当初私が漠然と感じたとおり、川端は「社会人の好選手」で終わってしまう可能性が高いように思えた。過去に、そんな選手を何人も見てきている。彼のプロ入りについては徐々に頭から離れていった。
◎2011年ドラフト会議で驚きの指名、そして入団
そんな矢先のことである。11年秋のドラフトも終わりかけとなっていた8位指名で、オリックスが川端を指名したのである。社会人の脂の乗った選手をこの順位で指名したオリックスの真意や、その後の細かな経緯はよくわからないが、結果として川端はオリックスに入団。今年の活躍ぶりはご覧のとおりである。
このような経緯を振り返れば、川端が1年目から活躍しても何ら不思議ではないし、活躍してくれなきゃ困る選手だったとわかるだろう。もし仮に今年は大人しくファームのレギュラーあたりに収まっていたら、数年後の未来はなきものになっている可能性だってあったはずである。
そう考えると、今季の活躍は素直に嬉しい。特に初球から積極果敢に手を出しながらもコンパクトなスイングや、かねてからの勝負強さをプロでも発揮したことは、私だけでなく、以前から彼を知っている者にとっては喜ばしいことだった。
実は、大学4年時の日米大学野球日本代表に選ばれたメンバーは、全員プロ入りしており、川端は最後の一人だった。それに対する想いも少なからずあっただろうが、今シーズンの活躍でコンプレックスは払拭できたはずだ。アマチュア時代からの地道な成長ぶりを知る身としては、来年は2年目とはいえもう“若手”とは言わず、早くも中堅としてパ・リーグに伝統的に出現する「数字以上にスポーツニュースで目立つ勝負強い選手」になってくれたら嬉しい。それが、大学、社会人とプロの夢をあきらめずに頑張っている選手にとっても大きな励みになるに違いない。
文=キビタキビオ/野球のプレーをストップウオッチで測る記事を野球雑誌にて連載つつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』(10月5日創刊)を軸足に活躍中。
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