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《野球太郎ストーリーズ》楽天2013年ドラフト2位、内田靖人。故障を乗り越え高校最後の夏に花開いた大砲

取材・文=高木遊

《野球太郎ストーリーズ》楽天2013年ドラフト2位、内田靖人。故障を乗り越え高校最後の夏に花開いた大砲
日本一に輝いた楽天は、次世代を見据えた補強にもぬかりはなかった。ドラフト2位で指名したのは和製大砲候補。その可能性を本人と監督の証言から探る。

ケガとの戦い


「いい状態で大会に入っていけたのは、この夏だけです」

 内田靖人を1年間指導してきた佐々木力監督はそう話した。2年夏から3季連続で甲子園に出場したが、その裏にはケガとの戦いがあった。昨年5月に右太もも前方部の肉離れを負った内田は「走るのが怖かった」という時期さえあったという。それでもチームの主力として公式戦を休まなかった。

 新チームでは主将に選ばれ、目の前のプレーだけではなく、チーム全員の先頭に立つ責任も生まれた。4番・一塁手として出場した秋季関東大会でチームは4強入りを果たし、センバツ出場を決めた。だが、自身は本来の輝きを放つことができなかった。

 冬に故障が完治し、迎えたセンバツ。1回戦の済々黌高戦で捕手として出場することができたが、チームは敗戦。内田は2安打を放ったものの、チャンスで打てず悔しい2度目の甲子園となった。

 そして大会後、佐々木監督は1つの決断をする。それが「主将の交代」だった。内田のリーダーシップに何ら問題はなかったものの、負担を軽減させた。本人も続けたい意向はあったが、「気持ちは楽になりました」と振り返った。

最後の夏に評価急上昇


 本誌前号の企画「プロ球団スカウト20人に聞きました!」にて実施されたアンケートで「甲子園で最も評価の上がった選手」に選ばれた内田。茨城県大会タイ記録となる4本塁打を放ち、乗り込んだ甲子園では、無駄な力みがなく、万全な状態でプレーできることの喜びを、まるでワンプレーごとにぶつけているかのようだった。

 1回戦の北照高戦でバックスクリーン横に本塁打、捕手として出場した2回戦の仙台育英高戦では、好ブロックに加え、座ったままの二塁牽制と、注目度は日に日に増していった。極めつけは3回戦の福井商高戦で放った左中間中段に飛び込む本塁打。チームを10年ぶりの選手権8強に導いた。

 大会後に高校日本代表に選出されると、U-18ワールドカップでは4番に座る。本塁打こそなかったものの打率.314、5打点と活躍した。

 この活躍は佐々木監督も想定外だったようで、「木製バットでの練習はここで1週間ぐらいしかしていないのですが、『インサイドからバットを入れていけよ』とアドバイスしたら、大会中にはもうそれを自分のものにしていました」と驚きを語った。

対応力の高さと影の努力


 佐々木監督の言葉にもあるように、内田の力強い打撃の裏には「対応力の高さ」が挙げられる。相手投手の特徴や自身の状態に合わせ、足の上げ方を高くしたり、ノーステップにしたりと変幻自在に変えている。実際、日本代表では外国人投手の速球に対応するため、すり足に打法を変えていた。「変わらないのは軸足にしっかり体重を乗せることだけです」と内田も語っている。

 こうした感覚的な鋭さに加えて、やはり本人のひたむきな姿勢もそれを可能にしている。「私や木内(幸男)前監督がポロッと言ったこともキチンと聞いて、陰で練習して試合で実践していますね」と佐々木監督は話し、内田自身も「『ここで変わった」というような転機はないです。毎日コツコツとやってきたことが夏に出せたという感じです」と話した。

長打力を最大限に生かす


 プロで1つポイントになるのが守備位置だ。佐々木監督はチーム事情次第と考えている。「プロで活躍するには、やはり変化球の対応をどこまでできるかだと思います。そのためには多く打席に立たせてもらえる守備位置で」と話し、内田も「守備位置にこだわりはない」とやはり一番の魅力であるパンチ力溢れる打撃を生かしていくことに重点を置いている。

 新チーム結成時に佐々木監督は「ボールの下をこすれ」「ポップフライはOK」と指示した。内田がチームに貢献できるのは長打と考えたからだ。高卒野手ということでもちろんまだまだ発展途上だが、自分のフォームのスローモーションを見て、「足を上げた時にブレがある」「スイングの軌道が遠回りで速球に差し込まれてしまう」と冷静に分析するなど、日頃からの野球への高い意識が感じられた。

充実の3年間


「厳しい練習もみんなでやれば楽しかった。毎日が本当に充実していました」と3年間を振り返った内田。入学以前から知る間柄であるエース・飯田晴海、吉成祐輔らと3度の甲子園出場を果たすことができ、入学以前から念頭に置いていたプロ入りも上位指名という形でかなった。佐々木監督が「1日1日うまくなっていった」と評した逸材は、充実の3年間を糧に、新たな一歩を踏み出す。

(※本稿は2013年11月発売『野球太郎No.007 2013ドラフト総決算&2014大展望号』に掲載された「30選手の野球人生ドキュメント 野球太郎ストーリーズ」から、ライター・高木遊氏が執筆した記事をリライト、転載したものです。)

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