まずは記憶に新しいところで、4月3日の阪神対ヤクルト(大阪ドーム)で起こった乱闘から。
藤浪晋太郎(阪神)が投げたボールが畠山和洋(ヤクルト)の顔付近に当たったことをきっかけに、両軍入り乱れてのファイトがスタート。
激高したバレンティン(ヤクルト)が矢野燿大(阪神コーチ)とやり合うなど騒然とするなか、遅れて乱闘の輪に駆けつけたのがマテオとドリス(ともに阪神)のドミニカンコンビ。
さも「楽しそうなもの見つけた!」と言わんばかりの表情で興味津々。輪に近づいてく様は、彼らの陽気な風貌やドレッドヘアと相まって、まるでコントのよう。間が悪いというか何と言うか。テレビ中継のアナウンサーが「2人が遅れて参戦」と真面目に実況したことも、そのユーモラスな風景に輪をかけていた。
結局、野次馬よろしく2人が駆けつけたときには、ひと悶着は終わっていたので出番はなし……。
でも、マテオやドリスが当事者になったときは……、きっと怖いんだろうなぁ、と思う。
「草食系男子」という言葉に代表されるように、控えめな男性が増えている昨今の日本。食うか食われるかのプロ野球界にもそういった選手が増えているよう。それを証明するかのようなシーンが、数年前の乱闘で見られた。
2014年7月15日のロッテ対ソフトバンク(QVCマリンフィールド、現ZOZOマリンスタジアム)のこと。サブロー(ロッテ)への死球に端を発した乱闘の輪の片隅で、談笑している風の松永昂大(ロッテ)と柳田悠岐(ソフトバンク)が目撃されたのだ。
そこにはオールスターゲームのベンチのなかのような楽しそうな雰囲気が漂っており、見ていると「そもそも乱闘など起きていないのではないか」と錯覚した。
今にも「このあと一杯どう?」「いいっすね〜」という声が聞こえてきそうだった。
ひとしきりの騒ぎが収まって謝っていたのかもしれないが、もし、若かりし頃の「燃える男」某H監督だったら、鉄拳制裁は免れないだろう。
3つ目は2005年5月9日のヤクルト対ソフトバンク(神宮球場)での乱闘を振り返る。
ヤクルトの先発・石川雅規は、ソフトバンクが獲得したバリバリのメジャーリーガー・バティスタに死球を与えてしまう。
バティスタの怒りは一気に沸点に。マウンド目がけて突進を開始する。「本能的」とばかり、向かってくるバティスタを見た途端、慌てて逃げ出す石川。しかし次の瞬間、バティスタは方向転換し一塁へと。
「もう当てるんじゃないぞ!」という石川への威嚇だったのかもしれないが、バティスタのフェイントにソフトバンクベンチでは城島健司が大爆笑。
苦笑いしながらマウンドへ戻ってきた石川は、心底ホッとしたことだろう。ただ気が緩みすぎたのか、その後に2点取られてしまった……
ボクサー顔負けのパンチを繰り出す助っ人もいるので、怖いことも多い乱闘。しかし、なかには結構なオモシロネタが潜んでいる。
石川とバティスタの騒動は「あわや」というシーンだったが、もし、石川が逃げずに突っ張っていたら、バティスタは怒ったままマウンドに突進したのだろうか。石川の性格的に、立ち向かうことはあり得ないとは思うが……。
ちなみに冒頭で紹介した4月3日の乱闘で、もみ合いのなかに山田哲人(ヤクルト)の姿がなかったのだが、輪から離れたところで心配そうに様子をうかがっていた模様。
山田は24歳。筆者の想像だが、この年代は友達と激しいケンカをすることもなさそうなので、もしかするとラフファイトにどう対応していいかわからなかったのかもしれない。
これからは乱闘慣れしていない選手が、もっと増えてきそうだ。数十年後には、「乱闘」が死語になっているかも!?
文=森田真悟(もりた・しんご)