オフに大型補強に打って出た巨人。レギュラーをめぐる争いのなか渦巻くのは、やはり小林誠司と炭谷銀仁朗の正捕手争いだろう。
原辰徳監督がFA戦線では炭谷にラブコールを送り、実力を買っていることもあって、下馬評は炭谷に軍配が上がる。ただ、これまで巨人の正捕手を務めてきた小林の評価があまりにも低いのではないだろうか…?
実力はあり、チームへの貢献度も高いのにチーム事情で報われない……そんな選手にエールを送る不定期連載「頑張れ、◯◯」。前回の鈴木大地(ロッテ)に続き、今回は小林を取り上げたい。
小林の守備の評価はずば抜けている。盗塁阻止率トップクラス常連の強肩はもちろんだが、ワンバウンドストップなど、基本的な技術に長けており、原辰徳監督もリップサービス込み(?)で「世界一」と語っている。
ほかには里崎智也氏(元ロッテ)も「現役ではナンバーワン」と断言している。たまに「凡ミス」があることを除けば、良好な評価を得ているのだ。
小林に対する批判として多いのは「リード」。ただ、これは投手陣の実力によるところが多い。大の小林びいき(に見える)巨人のOB・堀内恒夫氏もたびたび語っているが、「もしも」は語れない。現に巨人はここ数年、投崩という状態にまで至っていない。
このあたりは印象も大きいだろう。阿部慎之助に苦言を呈されているイメージもあるが、心根の優しい小林は「はい!」と聞いてしまう。OBや評論家の声も真正面から受け止めているような気がする。
昔から名捕手たるものは「愚痴」がうまい。たとえば達川光夫氏(元広島)のように、「ノーコンばっかりじゃけえ、構えたところにこんのんよ」とあっけらかんと言ってしまえばいい。打たれても「試しました」「遊びました」と言えばいいのだ。
とはいえ、そんな真面目な性格が愛される一因なのだが、永遠の若手からそろそろ卒業し、図太さを見せた方がいいだろう。確かにリードは見る人が見れば、教科書通りなのかもしれない。そこを破るには「人の悪い小林」を見せるべきだと感じる。
8日のオープン戦、エース・菅野智之が4回6失点と炎上した。女房役は炭谷銀仁朗。菅野が炭谷のサインに首を振るシーンが目についた。オープン戦なのでいろいろ試したこともあるだろうが、ここにきて小林待望論が出てきた。
ただ、打撃に課題があることは間違いない。2月26日の練習試合、9回無死満塁の絶好機に初球をひっかけてサードゴロ。相手のミスでサヨナラ勝ちを収めたが、原監督は「一番やっちゃいけない」とカンカンだった。
守備での凡ミスもあるが、明らかに集中力が落ちている場面がある。確かにチャンスに凡退したり、あっけなく打席が終わってしまうのは小林の悪癖だ。
しかし、昨季は4月に首位打者に躍り出るなど、打撃センス自体はそこまで悪いわけではない。問題があるとすれば、淡泊な印象を与える打席が目につくことだろう。
そもそも巨人は伝統的に「遅攻」を得意としており、「粘りの打撃」という仕事ができる選手が幅を利かせてきた。だから、小林はすぐに「粘るなりなんなり…」と注文をつけられる。そこが巨人の強さの要因でもあり、悪癖でもある。
2017年のWBC、打率.450をマークしたときの小林を思い出してほしい。相反するようだが、小林は「ノビノビと集中すれば」結果が出るタイプだ。ここまで、「打撃が、打率が…」と言われ続ければ、肩に力が入るだろう。その上、粘りまで求められれば、そりゃ打率だって落ちても仕方ない。
「打てるに越したことはないけど、小林は守ってくれればいいから」というムードがあれば打つのではないか。もっといえば、イケイケの「速攻」ができるチームにいれば、こんなもんじゃなかったはずだ。第一、小林は8番打者なのだから……。
しっかりとコーチが気持ちを乗せ、「粘り」以外の明確なタスクを持たせれば、きっと打撃は好転する。
頑張れ小林、のタイトルを裏切ることになるが、小林はもう十分に頑張っている気がする。
文=落合初春(おちあい・もとはる)