今までとは違う“新しい『熱闘甲子園』”を伝えていけたらなと思っています
いよいよ8月9日から開幕する第96回全国高校野球選手権大会。そして同じく8月9日から、今年も『熱闘甲子園』(ABC・テレビ朝日系全国ネット)が始まる。「甲子園球児たちのドラマ」を熱く届けてくれるこの番組だからこそ気付くことができる甲子園大会の魅力とは何か? そして今大会の見どころは? 『熱闘甲子園』の編集長を務めるテレビ朝日の宮崎遊さんと、元編集長の齊藤隆平さん(2006年−2011年担当)のお2人に話を聞きました。
今年はドラマチックな試合が多くなる
─── 組み合わせ抽選はこれからですが、今年はどんな大会になると予想していますか?
宮崎 石川大会決勝戦で星稜が最終回で8点差をひっくり返したような、ドラマチックな試合が多くなると思っています。石川大会に限らず、他の地区でも逆転劇や予想外の展開が多かったので、甲子園でもいろんな奇跡が起きそうな気がするんです。そこにすごく期待しています。そういう意味では「佐賀北」の匂いがします(2007年、広陵との決勝戦、逆転満塁本塁打により佐賀北が優勝した)。あの年も、事前には予想できない、普通であればあり得ない試合が多かった年なんですね。
─── 確かに、決勝戦の広陵(広島)vs佐賀北(佐賀)の試合もスゴかったですし、決勝戦までの佐賀北の勝ち上がり方も劇的な試合ばかりでした。
宮崎 今年の地方大会では、?橋光成投手(前橋育英・群馬)、小島和哉投手(浦和学院・埼玉)、田嶋大樹投手(佐野日大・栃木)、安樂智大投手(済美・愛媛)といった、「ドラフト候補」と呼ばれている選手たちの多くが敗れてしまいました。過去にも、中田翔選手(現日本ハム)がいたときの大阪桐蔭だったり、地方大会で160キロを出した大谷翔平選手(現日本ハム)のいた花巻東(岩手)など、注目選手が甲子園出場を逃した、ということは何度も経験しています。でも、今年ほど多い年はなかったように思うんですね。だからこそ、1人のヒーローが大会を引っ張るのではなく、「一期一会の高校野球の物語」を伝えていく年になるんだろうなぁ、というのをすごく感じています。“新しい『熱闘甲子園』”というか、今までとは違うところに振り切れたらなと思っています。
─── “新しい『熱闘甲子園』”のために、何か計画していることはありますか?
宮崎 『熱闘甲子園』ではこれまで、試合の詳細を伝える前に「前ネタ」というエピソード部分を用意していました。でも今年は前だけじゃなくて、中とか後ろとか、試合内容に応じて臨機応変に対応していきたいと思っています。たとえば、エースから背番号10の選手に継投する場面があったときに、「実はこの2人にはこんなことが……」というVTRを入れて紹介する、とか。あとは、『熱闘甲子園』では試合終了後の砂取りのところにも中継カメラが入っているので、もしそこで控え選手の誰かがエースに話かけて泣き始めた……というようなことがあれば、試合後にその選手に取材をするとか。そういう工夫をどんどんしていきたいなぁと。他のスポーツニュースでは載らないようなことも、ちゃんとキャッチして、どれだけそこに注力できるか、というのは頑張っていきたいところですね。
メインディッシュは試合。そこは間違っちゃいけない
齊藤 「佐賀北」の年もそうなんですけど、斎藤佑樹投手(現日本ハム)と田中将大投手(現ヤンキース)が決勝で戦った2006年の大会も劇的な試合が多かったんですよ。駒大苫小牧も逆転勝ちが多かったし、最終回に大量点を取り合った帝京(東東京)vs智辯和歌山(和歌山)のように誰もがビックリするような逆転劇ばかりで。ああいう年って、事前取材で用意していた「前ネタ」を飛ばさざるを得ないんですね。番組構成上は裏ドラマも必要なんですけど、試合があまりにも熱くなったら、どこよりもたっぷり、カメラも全部駆使して、その熱い試合内容を伝えないと。各試合の担当ディレクターは3日間かけて両チームを徹底的に取材して「前ネタ」を準備しているので、基本的にはその前ネタを軸に物語を構築していく。でも、やっぱりメインディッシュは試合。そこは間違っちゃいけない。だから試合展開によっては「ゴメン。この試合は前ネタを飛ばしてくれ」と決断するのも編集長の仕事です。
─── それは、大変な決断ですよね。
齊藤 でも、その前ネタを割愛した事によって試合部分に1分程度の尺を加算することができて、試合の行方を左右したボールの行方や、一瞬のプレーを選手たちがどんな表情で見守っていたのか更に濃密に描き込むことができる。『熱闘甲子園』でしかできないことでもあるので。また、基本は1日4試合に対し、できるだけ均等にVTRの時間を分配したいのですが、随時、試合展開に応じて臨機応変に再配分をしていく。そこも頭を悩ます所です。2010年の開星(島根)vs仙台育英(宮城)なんかは顕著な例ですね。開星リードで迎えた9回表ツーアウトの場面、白根尚貴投手(現ソフトバンク)が外野フライに打ち取ったつもりでガッツポーズをしたら、センターが落球してしまって……。
▲白根尚貴投手
─── しかも、その裏の攻撃では逆に仙台育英にファインプレーが生まれて試合が終わるという。
齊藤 そう! あの試合のときは、急遽、他の試合から尺を譲って貰って大幅にVTRの時間を延ばし、最終回の落球の瞬間に選手それぞれがどんな表情だったのかを伝えました。そして、最後に別コーナーを設け、落球したセンターの選手(本田紘章)の宿舎でのインタビューを盛り込みました。本来、そんな辛い状況でインタビューなんか受けてくれないと思うんです。傷口に塩を塗るようなことになりかねない。でも、だからこそしっかり、白根選手とそのセンターの子が普段の姿に戻っていくところを描くことで、物語を完結させることができたと思います。あれは、『熱闘甲子園』らしい1つの表現だったのかなぁ、と思いますね。
宮崎 準備していた前ネタを飛ばす決断自体はすぐできるんです。ただ、前ネタを飛ばして試合だけ、となってしまうと、ともすれば長いスポーツニュースになってしまう。劇的な試合があったときこそ、そこからオンエアまでに何ができるかを突き詰めていきたいというのはありますね。そういう、僕らの予想とか、伏線とか準備とかを凌駕するような試合が多い大会になると思っています。もう今からゾクゾクしていますね。
■プロフィール
(写真右)宮崎遊/1980年生まれ(松坂世代)。千葉県立成東高校では野球部に所属。3年夏は東千葉大会のAシードになるも初戦敗退。同世代の凄さ、初戦敗退のショックなど色々感じるものがあり、野球を離れて日本大学芸術学部放送学科に進学。2003年にテレビ朝日入社。2004年に初めて『熱闘甲子園』にスタッフとして参加する。巨人担当記者や野球中継、『報道ステーション』スポーツコーナーを担当し、2010年から再び『熱闘甲子園』のスタッフに。2013年から編集長を担当している。
(写真左)齊藤隆平/学習院大学を卒業し、1996年にテレビ朝日入社。1998年、スポーツ局に異動し、『GET SPORTS』、『NANDA!?』、『プロ野球中継』、『熱闘甲子園』などを担当。1999年、初めて『熱闘甲子園』にディレクターとして参加。その後、2004年から『熱闘甲子園』に再登板。2006年〜2011年の6年間、『熱闘甲子園』の編集長を務めた。現在はテレビ朝日営業局 タイムマーケティング部所属。
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