「トミー・ジョン手術」はフランク・ジョーブ博士によって考案された手術で、かつて桑田真澄氏(元巨人ほか)がこの手術を受けた際に、クローズアップされたことで知った人も多いだろう。
パワフルな某有名野球ゲームの中で出てくる「ダイジョーブ博士」はこのジョーブ博士が元ネタとも思われる。それほどジョーブ博士は日本の野球ファンの間では知られている存在だ。
かつては投手のヒジにメスを入れることは御法度だったが、今や、アメリカの野球界では「トミー・ジョン手術」を受けることは珍しいことではなくなっている。むしろ、この手術を受けることで球速がアップするということさえ言われているくらいだ。松坂大輔、和田毅(ともにソフトバンク)、ダルビッシュ有(レンジャーズ)などがこの手術を受けている。
ヒジの故障に悩む野球選手は投手だけではない。最近ではソフトバンクの今宮健太が「関節ネズミ」を除去するためにヒジのクリーニング手術を受けている。
また、ルーキーでも中日の小笠原慎之介がヒジのクリーニング手術をシーズン前に受けている。
ボールを投げる動作は人体の動きとしては「非常に無理がかかる動き」だと指摘されている。それだけにヒジのケアは欠かせないが、それでも、痛めてしまう選手が多いのも事実だ。そのほとんどは、幼少期から高校生時代に受けた損傷が原因と言われている。
「野球大国」である日本では特に、目標達成に向かって幼少期からハードな練習に取り組む子どもが多い。ハードな練習で酷使されてきた選手たちのヒジは、関節の軟骨が成人の状態になる前に部分的に遊離してしまうことで「関節ネズミ」となり、成人となった選手をも悩ませる存在となる。
さらにヒジを酷使し、靭帯を著しく損傷してしまうことで、果ては「トミー・ジョン手術」の世話になることになる。
これらはいわゆる突発的なケガではなく、投球動作を繰り返すことで起こる障害で、野球界ではもはや普通のことと流される風潮すらある。
しかし、せっかく授かった体にメスを入れる行為は極力避けたいもの。これからプロ野球を目指す野球少年のためにも、事前に「将来の障害」を回避するためのケアや知識が普及することが必要ではないだろうか。
文=元井靖行(もとい・やすゆき)