甲子園出場は叶わなかったが、石川の登板時には多くのスカウトが集結した。ストレートの最速は151キロ。剛腕と称されても不思議ではない数字だが、フォームには力みがない。肩、ヒジを柔らかく使い、耳の横あたりからピシッと腕が出てくる。腕の残像があるうちにボールがホームベース近くにきている快速球タイプの投手だ。
特に低めへの球威は冴えわたっている。高校生の速球派はいわゆる「マックス」が高めにあり、真ん中より低めの球はやや球速が落ちることが多いが、石川の速球は常に140キロ台を記録する。
低めだけではなく、やや抜けた球や逆球も垂れない。力任せではないフォームが生み出す快速球だ。
さらに伸びしろもある。夏の栃木大会では視察したスカウト陣が「高校生ではトップレベル」と口を揃えたが、大会前に左足首を捻挫しており、さらに春の右肩痛の影響もあり、万全の状態ではなかった。1年生の10月には左ヒザ半月板の手術も経験しており、体はまだでき上がっていない。それでいて高い評価を引き出しているのだから、これからの上積みも十分に期待できる。
「1位候補」とのスカウト陣のコメントもリップサービスではないだろう。7月16日の宇都宮商戦では「9球団21人」が集結した。
ポイントは21人というところだ。ドラフト候補の紹介では「○球団集結」が見出しのワードになるが、石川は1球団あたり2、3人のスカウトを集めている。
基本的にスカウティングの流れは、地方担当のスカウトが逸材を発見し、もし飛び抜けた存在ならば上司を呼ぶというもの。他地方での試合もある中で石川の登板を狙い、複数人で視察しているということからも「本気度」がうかがえる。
今年は清宮幸太郎(早稲田実)、中村奨太(広陵)、田嶋大樹(JR東日本)らがドラフトの軸になるが、意外と上位候補は少ない。話を聞くと「3、4位の候補は多いけど……」と漏らすスカウトもいる。しかし、石川は紛れもなく実力を兼ね備えた上位候補だ。
ただし、先述のケガも含めて体力作りは必要だろう。細かいコントロールにも課題を残す。上位指名でもある程度、3年間は育成に充てる余裕のある球団ならば、未来のエースになれる素材。石川を上位指名した球団のファンはニンマリしてもいいだろう。
文=落合初春(おちあい・もとはる)