オフの風物詩でもあるFA移籍。今年も40人程度が新たに権利を獲得する見通しで、有力選手に関しては、シーズン終了を待たずに、様々な情報が飛び交うことも恒例となっている。
今回は守備の要、チームの司令塔でもある捕手に注目し、現状と動向を「勝手に」考察してみたい。
2018年オフには炭谷銀仁朗(西武→巨人)、2017年オフには鶴岡慎也(ソフトバンク→日本ハム)、大野奨太(日本ハム→中日)と、近年、意外と多いのが捕手のFA移籍。絶対的なレギュラーが君臨しているチームでの2番手以降の捕手、あるいはチーム内の何人かで併用されている捕手ならさらなる出番を求め、新天地に活路を見出すケースは少なくない。
今季も新たに国内FA権を取得したチームの主力捕手がいる。會澤翼(広島)と伊藤光(DeNA)だ。
なお、中村悠平(ヤクルト)、武山真吾(中日)も新たに資格を満たしたが、中村は昨オフに3年契約を結んでおり残留はほぼ確定。武山も35歳という年齢から、FA宣言する可能性は低そうだ。
※成績は9月24日現在
會澤は2017年、2018年とセ・リーグのベストナインにも選出されているチームの大黒柱。昨季は106試合に出場し、規定打席未到達ながら打率.305、13本塁打、42打点と活躍。今季も125試合に出場し打率.277、12本塁打、63打点。規定打席到達もほぼ見えており、出場試合数や打点を考えれば、トータルの打撃成績はキャリアハイと言っていいだろう。
ディフェンス面でも盗塁阻止率は.265とまだまだ改善の余地はあるが、失策は2、捕逸は2と安定している。石原慶幸は40歳、打力で頭角を現してきた磯村嘉孝も、捕手としてはまだまだ経験を積む必要がある。抜けられては困る存在であることは間違いない。
5月にFA資格を満たしたときには、會澤はとくに態度を表明せず、球団側も、そうなれば全力で慰留という方向性を示したにとどまったが、過去には多くの主力選手が国内外へのFA移籍を決断してきたチームだけに、會澤も予断を許さない状況と見ていいだろう。
仮に移籍前提のFA宣言となれば、捕手を固定できていない楽天、日本ハム、中日、巨人が手を挙げる可能性はある。とくに楽天は、長年、扇の要を努めてきた嶋基宏が思うように二塁への送球ができない現状もあって二度の登録抹消。代わりに堀内謙伍や太田光が起用されているが、打率は2割前後と物足りないだけに、補強が急務となっている。いち早く獲得に乗り出すのではないだろうか。
伊藤は、昨年7月にオリックスから2対2の交換トレード(DeNAから高城俊人と白崎浩之、オリックスから伊藤光と赤間謙)でDeNAに移籍。1軍登録されたのがオールスターゲーム明けで、そこからチーム65試合のうち46試合でマスクを被り、重用された。
今季は7月30日のヤクルト戦で負った左手薬指剥離骨折のため、7月31日から9月10日まで登録抹消となりながらも、9月24日終了時点で捕手ではチーム最多となる84試合に出場している(ほかでは嶺井博希が62試合、戸柱恭孝が40試合、山本祐大が4試合)。
FA資格を満たした7月には「現段階ではわからない」とコメントしていただけに、シーズン後の契約交渉などを経て、どういう最終決断となるか断定はできないが、DeNAに残る可能性が高いのではないか。
オリックス時代の2014年にはベストナインに選出され、ゴールデン・グラブ賞を受賞するなど、誰もが認める正捕手として存在感を示していた時期がありながら、2016年以降は自身の不振や若月健矢の台頭もあって、出番が激減。一塁や三塁を守ることもあった。そしてDeNAへのトレード…。そういった期間を過ごしてきただけに、チームや若手投手陣から頼りにされている現状を、意気に感じている部分はあるはず。
ただ、宣言するようだと、會澤のケースと同様に、楽天を始めとして獲得に乗り出す球団は出てくるだろう。伊藤の今季の打率は.254と捕手としては及第点とも言える数字で、2013年には規定打席数を満たして.285を記録している。まだ30歳と、年齢的にも捕手として脂の乗ってくるころで、複数年契約への不安も小さい。伊藤がどういうジャッジを下すか注目だ。
文=藤山剣(ふじやま・けん)