週刊野球太郎
中学、高校、プロ・・・すべての野球ファンのための情報サイト

われら、夢の甲子園・成東高校 汗と涙の十四年/著者・松戸健――高校野球・「監督本」特集

野球王国・千葉の誕生


 松戸健という名前を聞いてピンときたら、なかなかの高校野球マニアでしょう。昭和40年代、千葉の高校野球が最もアツく、全国的にも強かったその時代、千葉県立成東高校野球部を率いていたのが、松戸健監督であります。


1965(昭和40)年・・・銚子商高/準優勝
1966(昭和41)年・・・出場なし
1967(昭和42)年・・・習志野高/優勝
1968(昭和43)年・・・千葉商高/2回戦敗退
1969(昭和44)年・・・出場なし
1970(昭和45)年・・・銚子商高/2回戦敗退
1971(昭和46)年・・・銚子商高/ベスト8
1972(昭和47)年・・・習志野高/1回戦敗退
1973(昭和48)年・・・銚子商高/ベスト8
1974(昭和49)年・・・銚子商高/優勝
1975(昭和50)年・・・習志野高/優勝


 1965(昭和40)年から1975(昭和50)年まで、夏の甲子園大会に出場した千葉のチームと甲子園での成績を一覧にすると、当時の千葉県のチームのレベルの高さがわかります。

 現在のように各都道府県から1〜2校が出場できる時代ではなく、千葉大会で優勝しても、関東地方の各県の優勝校と甲子園出場を懸けて試合をしなければならない時代でありました。

 この状況でも11年間で9回も千葉県のチームが出場して、そのうち6回が甲子園ベスト8。さらに準優勝1回、全国制覇3回と、全国の高校野球界に「千葉」の名が響き渡ります。これが現在でも「野球王国・千葉」といわれる所以でもあります。

成東の闘将・松戸健


 そんな千葉の高校野球が熱かった時期、1962(昭和37)年に松戸監督は成東高野球部監督に就任しました。上記の通り、14年間の監督生活で、成東高は全国レベルの強豪校、銚子商高と習志野高が分厚い壁となり、甲子園には一度も出場する事ができませんでした。しかし、甲子園出場を目指して、銚子商高や習志野高の牙城を崩すべく選手を鍛え上げ、各校と死闘を演じます。その奮闘の記録が、この本にはしっかりと刻まれているのです。



宿敵の壁を破れず


 今でも語り継がれているのが、1972(昭和47)年夏の千葉大会準決勝。この年の春のセンバツにも出場してベスト4に残った銚子商高と、後にプロ入りして中日で活躍する豪腕・鈴木孝政を擁した成東高が激突しました。

 千葉市天台にある県営球場のスタンドは25,000人の大観衆で身動きできないほどの超満員。試合はともに譲らず1点を争う好ゲームとなりました。試合が動いたのは8回裏、銚子商高の攻撃。鈴木と投げ合う根本隆が三塁打を放ち、銚子商高はスクイズで虎の子の1点を奪います。そして9回表を締めてゲームセット。成東高の松戸監督は、好投手・鈴木を擁して甲子園出場を狙っていたこの年、銚子商高の厚い壁を破ることができなかったのでした。

因縁は続くよ、どこまでも……


 その後も成東高と銚子商高の因縁は続きます。翌年の1973(昭和48)年夏の大会も同じ準決勝で両校は激突し、スコアも同じ0−1で成東高は敗れます。1974(昭和49)年は1点を奪うも1−1の同点から延長11回に勝ち越され、1−2で銚子商高が勝利。ちなみに、この年の夏の甲子園で銚子商高は全国制覇を果たします。

 そして1975(昭和50)年、千葉大会四回戦で銚子商高に1−2で敗れた成東高。この日で、松戸監督は成東高の野球部監督を辞任して、監督生活に別れを告げたのでした。4年連続で銚子商高に敗れ、甲子園に出場できなかった成東高は「悲運の成東」とも呼ばれました。前述したように甲子園の舞台でも千葉勢が強さをみせていただけに、仮に松戸監督率いる成東高が甲子園に出場したら、相当の活躍ができたのではないか……という高校野球ファンも多かったといいます。

感動的な閉会式が!


 その後、時代は過ぎて昭和から平成へ。成東高は1988(平成元)年、悲願の甲子園初出場を果たします。後にヤクルトに入団するエース・押尾健一が全7試合を1人で投げ切り、決勝でも拓大紅陵高を5安打完封、1−0で勝利し、約20年越しの甲子園への切符をつかみました。

 さらにドラマには続きがあります。このときの千葉県高等学校野球連盟の会長が、なんと松戸健その人だったのです。甲子園出場を決めた成東高ナインに対して、優勝旗を授与する松戸会長。監督時代の無念を知っている千葉の高校野球ファンは、スタンドから大きな拍手を送り、感動的な閉会式になったことは、今でも語り草になっています。

 最後になりますが、この本の帯が泣かせます。『甲子園は今年もダメだった!』とデカデカと記され、さらには「宿敵・銚子商、習志野高の厚い壁に夢破れ、悲運に泣く成東高――甲子園への予約切符はどこにもない!」と仰々しく書かれています。

 その通り、甲子園への予約切符はどこにもありません。だからこそ、毎年のようにドラマが生まれ、成東高の松戸監督のような伝説が生まれるのでしょう。果たして、今年はどんなドラマが生まれるのか……。読者の皆さんもそれを楽しみにしながら、高校野球シーズンに突入しましょう!


■プロフィール
小野祥之(おの・よしゆき)/プロ・アマ問わず野球界にて知る人ぞ知る、野球本の品揃え日本一の古本屋「ビブリオ」の店主。東京・神保町でお店を切り盛りしつつ、仕事で日本各地を飛び回る傍ら、趣味はボウリングと、まだまだ謎は多い。

文=鈴木雷人(すずき・らいと)/会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。自他共に認める「太鼓持ちライター」であり、千葉ロッテファンでもある。Twitterは@suzukiwrite

■お店紹介
『BIBLIO』(ビブリオ)
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1丁目25
03-3295-6088


記事タグ
この記事が気に入ったら
お願いします
本誌情報
雑誌最新刊 野球太郎No.32 2019ドラフト直前大特集号 好評発売中
おすすめ特集
2019ドラフト指名選手一覧
2019ドラフト特集
野球太郎ストーリーズ
野球の楽しみ方が変わる!雑誌「野球太郎」の情報サイト
週刊野球太郎会員の方はコチラ
ドコモ・ソフトバンク
ご利用の方
KDDI・auスマートパス
ご利用の方