1992年夏の甲子園、星稜・松井秀喜(元ヤンキースほか)への5打席連続敬遠で有名なこのカード。甲子園大会の歴史に残る“スタンド大荒れ試合”として知られるが、両校ともに甲子園常連校でありながら、未だに再戦はない。
しかし、実は2016年の1月、両校は全国高校サッカー選手権の準々決勝で相まみえ、星稜が3対0で明徳義塾を下した。選手たちは1992年には生まれておらず競技も違うが、そこは当然、意識する相手。
対戦前にコメントを求められた松井氏は「競技が違うよ」と苦笑いだったが、星稜イレブンは「絶対に負けられない」「サッカーに敬遠はない」と気合いの入ったコメントを残し、大先輩の悔しさを胸に全国の晴れ舞台でライバルを破った。
サッカーでこれだけの盛り上がりなのだから、甲子園ではもっとすさまじいことになるはず!
敬遠絡みでにわかに“因縁カード”の様相を呈してきたのはこの両校。今年5月に熊本で開催された招待試合でのことだ。秀岳館が4点リードで迎えた9回表。2死走者なしから秀岳館の鍛治舎巧監督は2番・雪山幹太を敬遠するようバッテリーに指示。3番・清宮幸太郎との勝負を選んだ。
清宮の結果は一塁ゴロ。スタンドは最後にもう1回、清宮の打席を見られて大盛り上がりだったが、早稲田実にとっては屈辱的な采配。早稲田実の和泉実監督は厳しい表情で仁王立ちし、清宮も首を傾げながら不満の表情。敬遠された雪山は涙を流した。
早稲田実の反応に鍛治舎監督は反省しきりだったが、そこにはチーム育成を考えた勝負師たる思惑もあっただろう。甲子園で再戦することになれば、この因縁が早稲田実の闘志に火を点けそうだ。
ライバル関係とはいえないかもしれないが、もう一度見たいのはこのカード。2003年夏の甲子園1回戦で対戦した両者だが、序盤から駒大苫小牧打線が大爆発し、3回終了時点で8対0の大量リードを奪っていた。しかし、4回裏の駒大苫小牧の攻撃中に激しい雨に見舞われ、試合続行が不可能に。ノーゲーム再試合となった。
ワンサイドゲーム未遂から一夜明けての再試合。今度は九死に一生を得た倉敷工が粘り強い戦いを見せ、なんと5対2で勝利。天をも味方につけ、異例の大逆転を演じた。
2007年夏の甲子園決勝戦。佐賀北が5対4で広陵を下し「がばい旋風」を完結させた。しかし、この試合は判定を巡って激しい議論を起こした。
8回裏、佐賀北の攻撃で飛び出た逆転満塁本塁打の直前の押し出し判定が、まず議論の的に。ストライクと見える球がボールと判定されたからだ。マウンド上の野村祐輔が驚きと怒りの表情を浮かべ、捕手・小林誠司がミットを地面に叩き付けるシーンはあまりにも有名だ。
その議論は判定だけではなく球場の雰囲気にも及んだ。公立校の佐賀北が強豪私立の広陵に挑む構図となったこの一戦。佐賀北の「がばい旋風」を後押しするムードがスタンドには漂っていた。それが審判をも飲み込んだように思う向きも多かった。
そのため、甲子園の伝統ともいえる判官贔屓の空気感を巡っても「いかがなものか」と賛否両論が繰り広げられたのだ。死闘の末の劇的優勝にも関わらず、佐賀北にケチがついてしまったのも事実……。
あれから10年、論調も変わりつつある。両校の直接的な因縁ではないが、今度の対戦では甲子園がどんな雰囲気になるのか。楽しみだが少し怖い気もする“胸がざわめくカード”だ。
文=落合初春(おちあい・もとはる)