ヤクルトの歴代の投手で、3年以上連続で開幕投手を務めたのは、金田正一、松岡弘、石井一久、石川雅規、そして今年の小川泰弘だ。チーム史上5人目となり、右腕では松岡以来2人目だ。
通算191勝を誇り、7年連続を含む9回の開幕投手を務めている松岡。しかし、過去のデータを紐解くと、開幕戦連勝は一度もない。昨年、一昨年と連勝している小川は、開幕戦に限れば松岡を超えているのだ。
チームメートの山田哲人とは、住んでいるマンションも同じで、互いの部屋も行き来するほどの仲良しだという。
過去には山田が喉の手術をした際、心配して一緒に食事をしたほどの間柄。その御礼に? 昨年のオールスターゲームに出場した山田は、他球団の選手に小川のウイークポイントを聞いて回り、その結果を小川に伝えたという話もある。
それが功を奏したか定かではないが、小川は球宴明けに6連勝を記録。ヤクルトを牽引する、若き投打の要の選手たちの信頼関係が、昨季はチームを優勝に導いたといえるかもしれない。
登板中は、あまり喜怒哀楽を顔に出さない小川。しかし、過去に一度だけ喜怒哀楽を表したことがある。
2014年、小川淳司監督の最後の試合となった神宮球場最終戦での出来事。この年限りでユニホームを脱ぐ監督への最後の白星と、自身の二桁勝利をかけてマウンドに登った小川は、7回まで1失点と好投を続けていた。
しかし、事件は8回に起こった。外野手の飯原誉士の落球もあって、チームは逆転されてしまったのだ。
この瞬間、小川は「うわっ!」と、怒りと呆れを醸し出しながら、悔しそうな表情を見せた。その様子はテレビでもはっきりと確認できたほどで、視聴者は飯原が落球したことに対しての嘆きだと思ったはず。これが当時、ネット上でも話題になった「飯原落球事件」である。
ところが真相は全く違った。この場面、フルカウントから捕手・中村悠平の要求したフォークボールに自信がなかった小川は、ストレート勝負を選択。結果、外野フライを打たれてしまった。
このときの小川の表情は、決して飯原を責めるわけではなく、自分が自信を持ってフォークを投げていたら……という、悔しさからの感情表現だったのだ。
昨年リーグ優勝したヤクルトには、来季の開幕試合のホーム開催権が与えられている。開幕連敗を喫したヤクルトではあるが、今季も小川がエースとしてチームを牽引してシーズンを戦い抜き、来年の開幕戦では神宮球場のマウンドに立っていることを期待したい。
文=勝田 聡(かつた さとし)
松坂世代のひとつ上にあたりサッカーの黄金世代となる1979年生まれ東京育ち。プロ野球、MLB、女子プロ野球、独立リーグと幅広く野球を観戦。 様々な野球を年間約50試合現地観戦し写真を撮影する。 プロ野球12球団のファンクラブ全てに入会してみたり、発売されている選手名鑑を全て購入してみたりと幅広く活動中。