高校通算65本塁打を放ったスラッガーとして注目を集める安田尚憲。
安田は5歳のときに、兄の亮太(三菱重工名古屋)がPL学園の一員として出場した2004年夏の甲子園を観戦して野球に惹かれる。
そして、小学生になると軟式の豊津東少年野球団に入団。6年生のときには阪神タイガースジュニアに選抜されるほどの選手へ成長した。ちなみに阪神タイガースジュニアのお披露目式は甲子園で行われる。
そして、中学では赤星憲広氏(元阪神)が代表を務める硬式野球チーム・レッドスターベースボールクラブに入団。このチームでは甲子園で練習試合を行うことがある。安田は高校野球の聖地でプレーしたことで、より「高校球児として野球をしたい」と考えるようになったという。
甲子園への想いを強くして入学した履正社では、1年の秋から三塁に定着。2年秋の明治神宮大会に近畿大会の優勝チームとして出場し、決勝で清宮を擁する早稲田実と対戦。ともに本塁打を打ち、ライバルとして火花を散らした。
そして、憧れていた甲子園には、2年夏と3年春に出場。3年のセンバツでは、聖地での初本塁打に加えて4割を超える打率も残し、あらためて類まれな才能を見せつけた。
最後の夏は甲子園に手が届かなかったが、U-18ベースボールワールドカップに出場する代表チームの一員に選ばれ、本番前の練習試合で高校通算65本目の本塁打を放つ。
清宮が倍近い高校通算111本塁打を記録したためにかすみがちだが、PL学園時代の清原和博を1本上回る立派な数字だ。高校3年間で着実に実力を伸ばし、実戦で打力を証明してきただけに、上のステージでも活躍が期待できる。
広島以外の11球団が面談に訪れると報道されるなど、清宮一色という向きになっている今年のドラフト。確かに清宮を獲得できれば、戦力アップだけでなくチーム人気の向上も火を見るよりも明らかだ。
しかし、「清宮、清宮」と躍起になりすぎて、ほかの金の卵を見過ごすのは痛い。それが中村奨成(広陵)であり、この安田。特に安田が守る三塁は、今は埋まっていても数年後に頭を悩ませそうなチームがちらほらある。
例えば西武。中村剛也という現役最高の大砲がいて、今季もチームトップの27本塁打を放っているが、打率がこれまでになく落ち込んでいる。また休みがちで、長らく務めてきた4番もシーズン後半には山川穂高に明け渡した。34歳という年齢から見ても、ゆるやかな下降線にあるようにも見える。
もちろん、大きな実績のある選手だけに、チーム内ですぐに中村に取って変われる選手はいない。三塁候補だった山川も、今は一塁を守っている。しかし、いないなら獲得すればいいこと。
そのうってつけの人材こそ安田だと筆者は考える。中村に衰えが見えるとはいえ、まだ数年はやれるはず。その間に2軍で安田を育成すれば、チームにとっても本人にとっても最高。まさにWin-Winのシナリオとなる。
筆者は西武ファンということで、かなり願望も混ざってしまったが、今度は安田が目指すべき選手を考察してみよう。
安田には「高卒」「三塁手」「強打者」というキーワードが浮かぶ。そうなると先の中村が当てはまるが、ここでは敢えて中村は中村でも中村紀洋(元近鉄ほか)を推したい。
本塁打王に1回、打点王に2回輝いている中村紀。しかも、ゴールデン・グラブ賞を5度も受賞するなど守備も上手さも持ち合わせており、その側面も安田を重ね合わせるにあたって重視した。安田は守備も安定感があるので、ぜひ守備力も伸ばしてもらいたい。
入る打席こそ安田が左、中村紀が右と異なるが、大阪出身のスラッガーという意味でも、平成の大打者を継いでほしいと願う。
文=森田真悟(もりた・しんご)