たとえば大阪の大商大堺高は、過去、何度も大阪大会で上位進出しているが、いまだ甲子園出場はゼロ。
ちなみに、かつて東京の二松学舎大付高や国士舘高は、春は何度も甲子園に出場し、ときには上位進出もするのに、夏になると出られないことで知られていた(現在は両校とも夏も出場歴あり)。
両校にとっては「夏の甲子園」は確かに悲願だったのだろうが、大商大堺のように春も夏も出場経験がない高校からしてみれば、まだ恵まれている。
「悲願校」の名は、やはり春夏通じて甲子園出場歴がない高校にこそふさわしい。
激戦区の神奈川では、横浜創学館高と向上高がまさに悲願校。
横浜創学館高は横浜商工時代から神奈川では実力校として認知されており、関東大会4強の実績もある。
秋山翔吾(西武)、石井裕也(日本ハム)などプロ野球選手も複数名輩出。この20年ほど、目立った低迷の時期もなく、継続して好成績を挙げている。しかし、甲子園にはどうしても手が届かない。
一方、向上高は古くは高橋智(元オリックスほか)を擁して夏の神奈川大会準優勝など、1980年代から県内では強豪として知られてきた。
その後、苦しんだ時期もあったが、現在の平田隆康監督が就任後、再び力をつけ、2014年夏には甲子園に王手をかけるも、またも敗退。30年越しの悲願はいまだ叶っていない。
こうした学校の存在は、神奈川が激戦区かつ高校野球人気の異常の高さを象徴しているように見えなくもない。
武田久(日本ハム)の出身校で、県の上位常連校である徳島の生光学園高も全国有数の悲願校のひとつ。さらに全国でも唯一という、ある悲願も背負っている。
生光学園高は私立校なのだが、実は徳島県、全国ただひとつ、いまだ甲子園に私立の代表校を送りこんでいない県なのだ。
私学全盛の時代が長く続く現代の高校野球において、これは珍しいケース。
生光学園は今年度も秋春県ベスト4。今年こそ、その壁を破ることはできるだろうか。
その他、四国では愛媛・松山聖陵高や高知・岡豊高なども県では上位に進出したり、優勝候補の一角に挙げられながら、甲子園出場がない典型的な悲願校だ。
野球王国とも呼ばれる四国だが、近年はその力も少し落ちている(というよりもレベルの地域差が縮まってきたという方が正しいかもしれない)。
だが、こうした典型的な悲願校が存在するところに、地域の地力というか底力を感じてしまう。
その他、宮城の柴田高、栃木の矢板中央高、東京の八王子高、福井の鯖江高、広島の尾道高、大分の大分雄城台高、宮崎の都城東高なども、長く県内では実力校として知られていたり、継続した上位進出がある悲願校。
全国的な知名度はないかもしれないが、都道府県内、あるいは同地区の強豪校や指導者たちは気の抜けない相手として認知しているはず。
こうした「悲願校」の戦いぶりにもぜひ注目してほしい。
文=田澤健一郎(たざわ・けんいちろう)