10月7日、セ・リーグ最終戦。広島は「勝てばCS」の大一番で敗れ、阪神とわずか0.5ゲーム差の4位に終わった。
思い返せば、昨季は菊池涼介らのバットが火を噴き、さらにオフには「男気」こと黒田博樹の加入もあった。本拠地のシーズンシートも売り切れ、「今年こそは」と期待が集まるなかの大苦戦。
失意、もどかしさ、怒り…。カープファンにとっては、複雑な思いがこみ上げてくる悔しいシーズンとなった。
敗戦から一夜明け、ネットメディアにはこんな活字が踊った。
「広島、誤審でCS逃す」
件の“誤審”といえば、9月12日の甲子園での阪神戦。延長12回表、2−2の同点で迎えた場面で、田中広輔が放ったバックスクリーン左への打球がフェンスを越えたものの、フェンス奥の「ねずみ返しネット」に当たり、グラウンド内に帰還。ビデオ判定が行われたものの判定は覆らず、三塁に走者を置いたままで試合が再開されたシーンだ。
これがホームランだったら、広島が勝っていた!
阪神との直接対決を制し、CS出場が決まっていたという“if”であるが、実は笑い話でも何でもなく広島ファンはかなり大真面目だ。
敗戦翌日の8日、日本野球機構には“誤審”に対する苦情電話が殺到したというのだから、「怒りの行き場」がない様子がうかがえる。
ちなみに広島出身で大のカープファンとして知られるアンガールズ・田中卓志も、試合当日にブログを更新し、「阪神戦のホームラン誤審の事を、グチグチ言わないでいいように、勝ってくれ! 絶対勝ってくれー」と密かに誤審への恨みを語っていた。
しかし、その“if”がありならば、広島も微妙な判定で勝利を収めた試合がある。
5月4日の巨人戦。9回1死満塁の場面で、代打・小窪哲也が本塁付近に打ち上げた打球をフランシスコと村田修一が取れず、フランシスコが慌ててボールを拾ってホームベースを踏み、球審はアウトのジャッジを下した。
しかし、三塁塁審がひっそりとインフィールドフライを宣告しており、フランシスコがベースを踏んだあとにホームに突っ込んだ三塁走者の野間峻祥は、生還扱いに。
もし、野間がインフィールドフライだと認識していれば、ホームに突っ込むわけもない状況で、グラウンド内の誰もが煙に包まれた椿事だった。
その後、インフィールドフライを宣告していなかった球審は「僕がもっと分かりやすく伝えてあげるべきでした」と語り、三塁塁審も「選手にうまく伝わっていなかったが、あれは誰が見ても明らかなインフィールドフライです」とコメント。
「幻のホームラン」と同様、事実上、審判が片手落ちを認めたのだった。
その後、広島は例によって、サヨナラインフィールドフライ記念Tシャツを発売。「知ってたもん勝ち」という白抜きの文字に、インフィールドフライに関する野球規則を配したデザインで、“ほぼ誤審”の勝利を異常なほどにお祝い。
まさか、シーズン終盤に誤審で泣くことになるとは思っていなかったのだろう。
カープファンがもうひとつ憤るのが、選手全体の不甲斐なさだ。地元局・広島ホームテレビの夕方のニュース番組・Jステーションに登場したカープファンの女性は、敗戦後の取材に対し、「全試合、納得した試合なんかなかったね」と泣きながら語り、カープファンから絶大な共感を呼んだ。
直近でも不甲斐なさを見せた試合がある。10月3日のヤクルト戦。前日に優勝を果たし、真中満監督をはじめ、明らかにベンチでウトウトと舟を漕いでいるヤクルトに対し、延長11回、4−6で敗れた試合だ。
ヤクルトは前日の神宮から移動日なしで広島に移動。さらに山田哲人・川端慎吾・畠山和洋の三冠トリオは、同日の午前2時に神宮球場近くの立ち食いそば屋でフライデーされており、対戦相手が深酒をしていたことに疑いはない。
その試合の8回表、痛恨の3失点を喫したのが大瀬良大地だった。
このところ、調子を崩していた大瀬良は、最終戦でも3失点で敗戦投手に。降板後、大瀬良はベンチで堪えきれずに泣き出し、他球団ファンの同情を買った。
前出のカープファンの男性の憤りが示すとおり、大瀬良の不調は誰の目から見ても明らかだった。決戦当日、黒田、ジョンソン、福井優也の好調先発陣をベンチ入りさせたにも関わらず、大瀬良を登板させた緒方采配への批判はついにピークに達している。
最終戦でもわずか1安打。打つ手なく終わった攻撃に加え、度重なる謎の起用&継投。ネット上では「緒方伝説」なる断罪の箇条書きが広まっている。
同じようにファンに「迷采配」といわれながらも成長を続け、勝てるチームを作り上げた野村謙二郎前監督。緒方監督はその礎をぶち壊すのか、それとも同じように成長していけるのか……。
エース・前田健太はメジャー移籍が濃厚。黒田の去就は未定。近年、ウキウキ気分だったカープファンの心には、不安と怒りの混沌が渦巻いている。
文=落合初春(おちあい・もとはる)