2015年は広島、2016年はDeNAでプレーしたザガースキー。身長183センチ、体重109キロのぽっちゃりボディーから繰り出したコミカルなエピソードは枚挙に暇がない。なかでも、2015年のキャンプイン直後に起こした「恵方巻事件」はインパクト絶大だった。
2015年、広島に入団したばかりザガースキーは、広島恒例の外国人選手による「恵方巻の儀式(願い事を心のなかで唱えながら黙って巻き寿司を食べること)」に参加した。
ぽっちゃりボディーにベビーフェイスのザガースキーだけに、特大の恵方巻をほうばる姿は、この上なくフォトジェニック。カープ女子を中心に「かわいい」「天使のようだ」と評判になり、瞬く間に人気者に。
しかし翌日、悲劇は起きた。恵方巻が口にあいすぎたのか? ウェイト過多気味のボディーを支える下半身が悲鳴をあげ、足首を故障。リタイア第1号となってしまったのだ。
皮肉にもザガースキーの願い事は、広島の優勝に貢献することと「今年1年の自分の健康と家族の幸せ」。健康を願った翌日に負傷し、広島も優勝を逃し、シーズンオフには解雇……。さすがにこのバッドラックな展開は、ザガースキーにとっては笑えないものだった。
近鉄の主砲として鳴らし、1991年には打点王に輝いたトレーバーも「巨漢事件簿」に名を連ねる男だ。
1991年5月19日、トレーバーはロッテとの一戦で大乱闘を繰り広げた。ロッテの園川一美からの死球に激昂したトレーバーは巨漢を揺らし、園川めがけて一直線に走り出す。全速力で逃げる園川。しかし、トレーバーは止めに入るほかの選手を突き飛ばしながら猛スピードで追い回す!
そのスピードはチームメイトの盗塁王・大石大二郎でも追いつかないほどの速さだった。それもそのはず、トレーバーはかつてアメリカンフットボールでも鳴らした身体能力抜群の選手だったのだ。
手のつけられぬほどの暴れっぷりに騒然となったが、両軍が協力してなんとか鎮圧。乱闘は終息し、間も無くプレー再開かに思えた……、その瞬間、トレーバーの怒りの炎が燃え上がった。
トレーバーは、ロッテの金田正一監督を見つけると、再び突進! 一直線に猛ダッシュを決め込んだのだが……。
「主食がビール」と言われたトレーバー。公称体重96キロ以上に見えるぽっこりとしたビール腹が邪魔をしたのか、敵将を目前に足がもつれて大転倒! さらに闘将・金田監督から渾身の顔面キック(スパイクで!)を食らい流血! あえなく返り討ちとなってしまった。
この大乱闘は16年経った今でも、珍プレーの定番として度々テレビで放映され、その主人公・トレーバーの名もプロ野球ファンの脳裏に刻み込まれている。
◎【巨漢事件簿B】ホームラン王のまんじゅうが消えた?
ここまでは外国人の巨漢選手を紹介してきたが、日本人選手も負けていない。日本人のぽっちゃり選手の代表格といえば、西武の中村剛也がその一番手だろう。
身長175センチ、体重102キロの巨体が生み出す長打力は、歴代3位となる6度の本塁打王を獲得と折り紙つきだ。
この中村のエピソードには、見た目から受ける想像通り食にまつわるものが多い。ニックネームの「おかわりくん」は、本人が好きな言葉として挙げた「おかわり」がその由来。それくらい食への執念が強い男が起こした事件は、ずばり「まんじゅう事件」だ。
まんじゅう好きの中村は、試合前にまんじゅうを2つ買い、試合後に食べようと大事にしまっていた。しかし試合が終わり、いざまんじゅうを食べようとしたら、あるはずのまんじゅうがなくなっていたのだ。
普段は温厚な中村だが、大事なまんじゅうがなくなったとなると平常心ではいられない。「ここにあったまんじゅう知らん?」「まんじゅう食ったの誰や! 最悪や!!」と、怒りをにじませながら30分も捜索したという。
超一流選手がまんじゅうに対して本気になる姿を想像するとどこか可愛らしい。「巨漢とまんじゅう」が織りなす絶妙なハーモニーが笑いを誘う事件だった。
なお、まんじゅうはどの選手のお腹のなかに消えたのか? 諸説あるが、真相は明らかにされていない……。
このように「いるだけ」で存在感抜群の巨漢選手はちょっとしたエピソードでも、くすっと笑える事件になりがちだ。ぽっちゃりした体で奮闘する姿は、至極のエンターティナーと言ってもいい。今年はどの巨漢選手が事件を起こすのか? 巨漢選手から目を離せない。
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)