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プロ野球プレイバック2015 不世出のサウスポー・山本昌の引退登板を改めて振り返る

 32年間、コツコツと積み重ねてきたキャリアは無駄じゃなかった。最後の最後まで、野球の神様は山本昌に微笑む。予定より1週間延びた現役生活を全うし、不世出のサウスポーは2015年10月7日をもってユニフォームを脱いだ。

 シーズンオフに入って、テレビなどの出演回数も増えている山本昌。中日ファンのみならず、多くのプロ野球ファンから絶大な支持を受けている証拠だろう。2015年も残りわずかとなったこの時期、偉大なレジェンドの引退登板を改めて振り返ってみたい。


「マサ」に恵みの雨。シーズン最終戦の延期が引退登板を現実のものに


 思えば、2015年シーズンは試練の連続だった。春季キャンプは順調に休みなく完走したものの、3月の教育リーグで投球した際に右膝を捻り、まさかの1球降板。調整に大きな狂いが生じ、実戦復帰は6月にずれ込んだ。

 さらに、8月9日の1軍初登板ではわずか22球でマウンドを降りる緊急事態。これまで経験のない、自らの身体に左手人差し指をぶつけるというアクシデントだった。このケガの影響もあったのか、またチームの不振と相次ぐベテラン勢の引退劇も引き金となったか、9月末に今季限りの引退を発表。別れを告げる登板はケガの状況を見ながらという、非常に難しい状況だった。

 それでも、天は背番号34に味方した。10月1日の広島戦が雨天中止となり、代替試合は予備日の7日に組み込まれた。この日がシーズン最終戦となり、必然的に山本昌の引退登板が決定的に。痛めた左手人差し指のために少しでも時間が欲しかった中、「マサ」に恵みの雨となった。


入魂のスクリューボール3球。敵地のスタンディングオベーションに涙を我慢できず


 10月7日は予告先発としてマウンドへ。相手はクライマックスシリーズ出場がかかる中、打者1人に対しての登板だ。敵地・マツダスタジアムに駆けつけたドラゴンズファンは「34」と大きく書かれたボードを手に、レジェンドのラストシーンを目に焼き付けようとした。

 山本昌は広島の核弾頭・丸佳浩に、代名詞のスクリューボールを立て続けに投げ込む。そして2球外れた後の3球目、丸はやや高めに浮いたボールを引っ掛けセカンドゴロに倒れる。通算13862人目の打者を抑えた瞬間、32年にわたる現役生活にピリオドが打たれた。

 一塁手の森野将彦からボールを受け取り「ありがとう」と声をかけたのを皮切りに、ナインが背番号34に駆け寄る。さらに、真っ赤に染まった相手ファンからもスタンディングオベーションが巻き起こる。ベンチから谷繁元信監督が労いに来た時には、もう男の目には涙が溢れていた。まさに大団円だ。


 試合はこのあとマウンドを引き継いだ大野雄大、若松駿太が完封リレーを見せ、中日が勝利。チームを支え続けたレジェンドから現在のエースへ、そして次代を担う成長株へバトンが繋がれる最高の形でシーズンを終えた。背番号34が遺してくれた魂を忘れることなく、2016年もドラゴンズナインは前向きに戦ってくれることを期待したい。


文=加賀一輝(かが・いっき)

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