今回放送されたラジオ番組でも、ひと際話題となったのが、1975年初優勝時にリリースされた優勝メンバーが歌い上げる「カープ選手かぞえ唄」だ。
そぃつぁ豪気(ごうき)だねぇ〜♪ そぃつぁ豪気だねぇ〜♪
と、盆踊りなどの音頭よろしく、打順にそって選手たちが自身のセールスポイントを歌い上げる。サビなどがあるわけでなく、単調な音頭が延々と続くのだが、選手それぞれの個性が出ていてそれがとても面白い。
3番のホプキンスは英語で歌い、6番シェーンは拙い日本語で歌う。両者の歌へ向き合う姿勢の違いなのか? いずれにせよファン必聴の一曲だ。
外国人が歌うと言えば、当時阪神タイガースで人気を博した、トーマス・オマリーが歌う六甲おろしがインパクト面で代表格と言えるだろう。
慣れない日本語の歌詞という部分を差し引いても、クソ音痴と言わざるを得ない、さすが首位打者といえる破壊力満点の一曲となっている。
歌手以外の人間が歌を出すと往々にして、恥ずかしさをおぼえるものだが、このオマリー版六甲おろしは、聞くと温かい気持ちになれると評判でもある。
タイトルホルダーの歌といえば、あの大打者・落合博満(元ロッテほか)も多数の歌をリリース。野球選手としては異例のベスト盤CDをリリースするなど、歌手としても成果を収めている。
外角を逆らわず逆方向に打ち返す打撃のごたるしっとりとした歌声は歌手顔負け。その多彩ぶりには驚かされる。
その中にある、「息子へ」という曲には、幼少期の息子・落合福嗣氏が参戦。
「パパもママを泣かすなよ!」と、絶叫。
現在、声優として活躍する彼の才能の片鱗が見えるプレミアムな一曲だ。
歴代最強クローザーの呼び声高い、大魔神・佐々木主浩(元横浜ほか)も、メジャー挑戦前の2000年3月に「break new ground」というタイトルのCDをリリースしている。そのプロデューサーは、時代の寵児だったあの小室哲哉。佐々木の本気度がうかがえる1曲だ。
しかし、この歌は全くと言っていいほど話題にもなっていない。意味不明なタイトルと、一本調子なメロディと歌が印象をなくしているのか? 本気度が強い分だけ恥かしさが増す一曲である。
このように、賛否あれど企画モノから本気度の高い曲まで、かつてのプロ野球界は多くの選手が歌を出していた。
日本音楽史上に何の記憶も残さない楽曲がほとんどではあったが、現代ほど娯楽がなかった当時、プロ野球が誇る大衆人気と、その選手たちのタレント性の高さが、楽曲を発売させるに至っていたのだろう。それを楽しみにしていたファンも多くいたのも事実である。
妙にアスリート化してしまった現代の選手たちだが、迷わず歌も出せるスターが現れることを願って止まない。
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)