最下位に沈むチームでもっぱらの話題はバレンティンの本塁打記録だ。そしてそれが更新された今、10月が近づいてくると今度は「宮本慎也の引退ロード」がクローズアップされくるだろう。CS進出が極めて厳しくなったチームではあるが、今年のヤクルトは多くの話題を野球ファンに届けている。
そして忘れてはならないのがもう1人、新人王争いどころか最多勝争いも繰り広げるルーキー・“ライアン”こと小川泰弘だ。
借金が「30」近いチームにあって、14勝4敗(9月15日現在)と1人で貯金を「10」を稼ぎ、エース・館山昌平の戦線離脱や他の先発投手陣の不調で苦しい戦いを強いられているチームの中で「孤軍奮闘」と評してもいい活躍ぶりを見せている。
味方の援護に恵まれなかったり、中継ぎ陣に勝利を消されたりしても、170センチの小柄な体を目いっぱい使った「ノーラン・ライアン投法」で黙々とアウトと白星を積み重ね続けている。その心身の強さは東京新大学リーグ通算36勝3敗、防御率0.60という驚異的な記録した大学時代から、まったく変わらないものだ。
今、この状況で言うと嘘っぽく聞こえてしまうかもしれないが、私は今年の新人王予想は、「セが小川、パが則本(楽天)か鍵谷(日本ハム)」だった。
この3人に共通していたのが、「言葉の深さ」だ。3人とも決して饒舌というわけではないものの、1つ1つの言葉に重みがあり、精神力の強さや私生活からの鍛錬がインタビューから透けて見える投手たちだった。中でも小川が持つオーラは突出していた。
「意志のない球は打たれる」
創価大学時代の恩師である岸雅司監督は、ある日見ていた小川を紹介するテレビ番組でこの言葉を耳にし、感心したという。やはり、大学時代から通じる精神面の強さは、プロに入っても変わることはなかったと改めて確信した。
小川の入部当初は、プロで活躍、ましてはプロに入ることさえ想像もつかなかったという岸監督。一方で、入部時にベストコンディションで合流してくるなど、高校部活引退後も決して気を抜かなかった姿勢などを評価しており、「どんな立場でも一生懸命やれる子だから、学生野球ではこういう選手が活躍するな」とも感じたという。
「どんな立場でも一生懸命」このことは、今のヤクルトや小川の状況に当てはめても同じことが言えるのではないか。
8月3日の白星以降4試合で白星がつかず、ついにその勢いが止まるかとも思われたが、9月8日の中日戦で1失点の完投勝利。このあたりの修正能力は日々、そしてこの23年間の鍛錬の表れと言っていいだろう。
そんな「今の小川」の快投が見られる日も終焉が近づいている。CS進出が厳しいヤクルトはおそらく10月上旬でシーズンが終えることだろう。