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センスの上にあぐらをかかない“センスの塊”。プロはセンスだけでは厳しいと知っていた小園海斗

文=服部健太郎

センスの上にあぐらをかかない“センスの塊”。プロはセンスだけでは厳しいと知っていた小園海斗

絶対プロにいくと確信した身のこなしの美しい14歳


 今から約6年前となる2014年8月2日、大阪で開催されたボーイズリーグの全国大会で小園海斗(広島)のプレーを初めて見た。当時、小園は14歳になったばかりの中学2年生。下級生ながら強豪・枚方ボーイズの2番・遊撃を務める、身のこなしが美しい少年にたちまち目を奪われた。試合を見終わった段階で私は思った。

「この子、絶対にプロいくやろ」

 1試合を見ただけで、確信レベルでそう思えた中学生は初めてだった。スコアブックに記した名前の横には滅多なことではつけない星印を書き込んだ。

 この試合で6番・ライトを務めていた同じ中学2年生、藤原恭大(ロッテ)の鋭いスイングと俊足にも驚かされたが、スコアブックに記した感想コメントの文量は小園の方がはるかに多かった。この日、記した内容を書き出してみる。

〈身のこなしがきれい。インサイドから振り出せるスイング軌道

。現時点で木製バット使いこなせる。足めちゃ速い。捕球時のハンドリング柔らかい。グラブさばきただものじゃない。守備範囲広い。ゴロに対し、前に出るところは出て、待つとこしっかり待てる。打者走者の脚力に合わせて送球できる。無駄に急いで投げないので悪送球少なそう。スローイングの安定感ハンパない。野球センスの塊。今はまだ線が細いけど全く気にならない。バットのヘッドの使い方が巧いので体の割には飛ばせるタイプ。身体の成長に比例するように成長していけるタイプ。パワーは後追いでついてくる〉


 そんな賛辞の内容が他選手のコメント欄にまで侵出する中、1点だけ苦言を呈する内容があった。

〈三遊間のゴロに対し、無理に回り込んで捕ろうとしすぎ。逆シングル捕球が正解と思われる打球が2回〉

 試合後、球場の外で小園を直撃した。浮ついた雰囲気が全く感じられない、落ち着いた佇まいが印象的だった。

 身長176センチ67キロ、50メートル6秒1、遠投90メートルという数字を確認した流れで三遊間に飛んだゴロに対する意識を尋ねてみたところ、次のような答えが返ってきた。

「回り込んでの正面捕球にこだわっています。逆シングルでの捕球はできる限り使いたくないんです」

 返答内容は予想の範疇だったが、回り込んでの捕球に対するこだわり度合いは予想以上だった。

 雑誌『中学野球太郎』の恒例企画である「有望中学球児名鑑」の人選に迷わず、小園海斗を推した。当時、書いた名鑑記事の内容は次のようなものだった。

〈■どんな選手?/50mを6秒1で駆け抜ける俊足を誇る、野球センス抜群の遊撃手。体格も依然成長中。■ここがスゴイ!/確実性と攻めの姿勢を兼ね備えたダイナミックな守備。ショートに打球が飛ぶと安心とワクワクが同時に味わえる。ハンドリングのよさは高校球界でもトップクラスだ〉

 この名鑑には「お節介アドバイス」という項目もあり、そこには「逆シングル捕球と上手くつきあえるようになればさらなる高みに行ける」と記した。中学生の間に小園はこの名鑑に計3回登場したが、「お節介アドバイス」だけは同じ内容を毎回記し続けた。

中高でたった2度の悪送球を悔しがる


 兵庫・報徳学園に進学すると、1年春にいきなり遊撃のレギュラーを獲得した小園。その後も体格の向上と経験値に歩を合わせるかのように進化を続けた。試合を観戦するたびに打球の飛距離は増し、ポジショニングは後方に下がり、守備範囲は広がっていった。

 1年目の冬を越え、ポジショニングの位置が外野の芝生に達した時は驚いたが、いつしかその光景も「普通のこと」になっていった。三遊間のゴロに対しても、強引に回り込むのではなく、スローイングへの移りやすさを考慮し、「あえて」逆シングル捕球を選択するシーンが増大。ショートストップとしてアウトを奪う力は年々向上していった。いつしか50mタイムは5秒8、遠投力は110メートルに達していた。

 高2の終わり頃、小園は三遊間のゴロに対する意識の変化を次のように語った。

「高校に入って、全体の走力が上がり、中学ではアウトになったゴロの処理の仕方でアウトがとれなくなり、回り込んで捕球することに対するこだわりがなくなっていったんです。侍ジャパンU-18代表に選出された際にアメリカのショートが送球に移りやすい体勢を作るために逆シングル捕球を積極的に使っているのを目の前で見せつけられたことも自分の中では大きかった。アウトを奪う力は以前よりもかなり増したと思います」

 振り返れば、小園がアマチュア時代に描いた成長曲線には伸び悩みを感じさせるような停滞期がなかったことに驚かされる。プレーの質は観戦するたびにアップデートされていた。中学生の段階で圧巻のパフォーマンスを見せていたため、「伸びしろの先食い」を疑ってみたこともあったが全くの杞憂に終わった。その最大の要因は、「生来の稀有なる野球センスにあぐらをかかない姿勢」だと感じていた。

 2018年度のドラフト会議前日、放課後の報徳学園で小園と話す機会があった。

「あの細かったぼくがついに83キロになりました!」と嬉しそうに語るドライチ候補にそんな感想を伝えたところ「センスの上にあぐらをかかないという表現は自分に合ってると思います。そのことは強く意識してましたから」と返ってきた。小園は続けた。

「プロはセンスを持った選手の集まり。となれば、差をつけられるのはセンス以外の部分。粘り、読み、一歩目の判断など、センスだけではまかなえない部分も野球にはたくさんありますし、そういう部分を大切にしていかないとプロでは結果を残せないと思ってます。センスだけでは厳しい世界でしょうから」

 中学、高校を通じ、小園が悪送球エラーを犯したシーンを目撃したことがなかった。小園によれば「今までに2回、悪送球をしたことがあります」。よくよく聞けば小、中学時代を含んだ、人生通算の「2回」らしい。まるで重大な過ちでも犯したかのような面持ちで悔しそうに語る小園を見て私は確信した。

 「2度の悪送球をここまで悔しがれる選手がプロで成功しないはずがない」と。

文=服部健太郎(はっとり・けんたろう)

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