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《野球太郎ストーリーズ》中日2013年ドラフト1位、鈴木翔太。右ヒジ痛を乗り越えた静岡のシンデレラ右腕(2)

取材・文=栗山司

《野球太郎ストーリーズ》中日2013年ドラフト1位、鈴木翔太。右ヒジ痛を乗り越えた静岡のシンデレラ右腕(2)

前回、「フォームの美しさに一目惚れ」

2013年に12年ぶりのBクラスに沈んだ中日がドラフト1位で指名したのは、静岡の快腕だった。一時は故障に苦しみながらも、這い上がった右腕の高校時代を追った。

よもやの右ヒジの故障


 夏で一躍県内外に実力を示した鈴木だったが、秋は地区大会でよもやの敗退。そんな中でも、名門・横浜高との練習試合で好投するなど、周囲の評価はグングンと上昇していった。「2013年のドラフト上位候補」として、多くのスカウトが聖隷クリストファー高のグラウンドに足を運んだ。

 オフには、体の柔軟性を養うトレーニングに励み、万全の状態で高校ラストイヤーを迎えるはずだった。ところが…。

 練習試合が解禁となり、センバツ出場チームとの練習試合を重ねている3月頃だった。鈴木は右ヒジに異変を感じた。当初は違和感を覚える程度だったが、その後は登板を回避。靭帯へのダメージも大きく、春の地区大会は未登板。県大会では、他の投手の不調もありマウンドに上がったが、ストレートの球速は130キロそこそこ。富士市立高戦では3回3分の2で5失点。本調子の鈴木なら考えられないような状態だった。

 スカウトの間では「フォーム的にインステップが気になる」など、故障以外での不安の声も上がっていた。

佐野副部長の言葉


 もともと真面目な性格に加え、感受性が強い鈴木。「なんでこんなことになってしまったんだ?」と自問自答を繰り返した。時には練習中に涙を流し、もがき苦しむこともあった。

「正直、焦っているところがあって。本当に夏に間に合うのかと」

 この時、助け舟を差し出したのは、鈴木が兄貴分と慕う佐野大輔副部長だった。

 佐野副部長は元プロ野球選手の勝稔(現浜松リトルシニア監督)を父に持ち、横浜高では多村仁志(DeNA)らとともに、3年の春夏に連続で甲子園出場。小柄ながらシュアな打撃と攻守が光るプレーヤーとして記憶しているファンも多いはずだ。2009年から聖隷クリストファー高で指導するようになり、鈴木が2年秋からは投手担当として二人三脚で練習を重ねてきた。

 春から夏へ季節が移り変わろうとしていたある日、故障の影響で思うような球を投げることができず苛立っている鈴木を見ていた佐野副部長が投げ込みを止めさせた。鈴木を呼びと、2人きりで30分に渡り、本音をぶつけあった。最後に佐野副部長はこう言った。

「いいか翔太、お前がここで無理をしたら将来がなくなるし、夏も投げられなくなる。悔しい気持ちもわかるけど、お前はそこを我慢していけば絶対に将来いいことがあるぞ。全部、自分で抱えようとしなくていいよ。俺が半分、背負ってやるからな」

 鈴木は大粒の涙を流し続けた。佐野副部長の言葉で精神的に楽になりリハビリに励むと、みるみると状態が回復。夏前にはついに140キロ台の速球が蘇った。

自信を取り戻した最後の夏


 高校生活最後の夏の大会。2回戦で待ち受けていたのはシード校・飛龍高。飛龍高は前年秋、今春とともに県ベスト4進出。県内屈指の強力打線を形成していただけに、鈴木と飛龍打線の対決に大きな注目が集まった。さらに鈴木の状態を確認しようと、プロ全球団のスカウトが熱視線を送った。

 ところが試合は思わぬ形で幕を開ける。初回、飛龍高の好打者・小豆澤誠に先頭打者本塁打を浴びる。このまま、ズルズルと飛龍高の展開になってしまうのか。ところが、「小豆澤に打たれましたが、いいバッターだと思っていたんで、そこまで別に引きずることはなかったです」と本人が語るように、その後も毎回走者に出す苦しい投球も粘り強く丁寧に投げる。打っては自らのタイムリーもあり、相手投手陣から6点を奪い逆転勝利を飾った。

 その後、4回戦では、焼津水産高相手に7者連続三振を含む、16奪三振(延長10回)をマーク。ベスト8で菊川南陵高に敗退し、甲子園には手が届かなかったものの、自信を取り戻した鈴木。夏の大会終了後、誘いのあった大学、社会人をすべて断り、プロ一本に絞って10月24日を待った。

「悔し涙」から「嬉し涙」へ


 ドラフト当日、佐野副部長は鈴木に気づかれないように、遠くから様子を見守っていた。

 中日から1位で指名を受けた後、仲間による胴上げが終わった時だった。歓喜に沸く生徒、記者やカメラマンを振り切り、鈴木が向かった先は佐野副部長だった。
「1位で指名されました。今までありがとうございました」と頭を下げた鈴木に対し、佐野副部長は「よく頑張ったな。おめでとう」。言葉はそれだけで十分だった。鈴木の目にも、佐野副部長の目にも涙が浮かんだ。

 端正な顔立ちと、しなやかで流麗なフォーム。それだけでスター性十分の逸材だ。でも彼の持っている素質はそれだけではない。マウンドに立つと、人が変わったかようにスイッチが入る強心臓。誰よりも負けず嫌いな性格。

 そして、高校時代に故障や敗戦で挫折を味わい、その度に周りの支えで立ち直った実績は何ものにも代えがたいものだ。

 今度は、プロで喜びの涙を何度も見せてほしいと思う。
(※本稿は2013年11月発売『野球太郎No.013 2013ドラフト総決算&2014大展望号』に掲載された「30選手の野球人生ドキュメント 野球太郎ストーリーズ」から、ライター・栗山司氏が執筆した記事をリライト、転載したものです。)
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