「俺たちは今シーズンが勝負の年」
開幕前、鳥谷が早稲田大の後輩にあたるチームメイトの上本博紀にかけた言葉だ。その言葉を胸に上本もオープン戦から絶好調をキープ。ペナントレースに入っても二塁のレギュラーに定着し、打率.343と2番打者としての働きを十二分に果たしている。
鳥谷が声をかけるのは、上本だけではない。昨シーズンもベンチで、ノックアウトされた藤浪晋太郎をはじめ、投手陣に声をかけるシーンを何度も目にした。
派手なパフォーマンスでチームを引っ張るリーダーもいれば、鳥谷のように静かに声をかけ勇気づけるリーダーがいてもいい。
「鳥谷は鳥谷らしく」でいいのだ。
昨シーズンは、キャンプから右方向への強い打球を意識し、引っ張る打撃にこだわった。そのためリズムを崩し、元の姿に戻ることはなかった。
しかし今シーズンは、開幕から広角にうまく打ち分ける打撃が目立つ。
鳥谷は元々、左利きの選手だ。プロ野球では「右投左打」の選手が多いが、元々右利きだった選手が少年野球時代に左打ちに変更したケースがほとんど。しかし、鳥谷は生まれながらの「右投左打」という珍しいタイプなのだ。
よって、右利きの選手が右手で引っ張るのとは違い、鳥谷は左手の押し込みが強い。打球が左中間深くに強く飛ぶことが、鳥谷の調子のバロメーターと言われているように、元来、左手で押し込む形の方が性に合っているのかもしれない。
その鳥谷が今シーズンは、体を開き気味に構え、投手と正対。ポイントを前に置いて、インコースのボールを右方向に強烈に引っ張る打球が増えた。鳥谷らしい糸を引いたようなライナー性の打球を目にすることが多くなった。
昨シーズンの不振が鳥谷を14年目にして初めて覚醒させたのだろうか。
今シーズンに限っては鳥谷の復活は新戦力に等しい効果があり、チーム力を限りなく押し上げている。
遊撃のポジションは、キャンプで競り合った北條史也に譲り渡したが、これも「チームの将来ため」と考えれば、鳥谷としては納得のいくコンバートだったのかもしれない。
それよりも、「どのポジションでも任せられたところをやるだけ」と鳥谷自身が発しているように、フォア・ザ・チームの精神で慣れない三塁を懸命にこなす姿には胸を打たれる。
チームにとっては数少ない生え抜きのベテラン選手で、将来の幹部候補生でもある。
1年遅れたが、鳥谷にとって今年が、いい意味で「変われた」シーズンとなって欲しい。
文=まろ麻呂
企業コンサルタントに携わった経験を活かし、子供のころから愛してやまない野球を、鋭い視点と深い洞察力で見つめる。「野球をよりわかりやすく、より面白く観るには!」をモットーに、日々書き綴っている。