週刊野球太郎
中学、高校、プロ・・・すべての野球ファンのための情報サイト

好成績を連発する若い世代の台湾代表。チームを率いる郭李建夫監督に聞く台湾野球事情

ウインターリーグには大学生も参加している


 今回のアジアウインターリーグには、大学生を中心とする選抜チーム「中華培訓」が参加している。このメンバーの中には、昨年、今年とピッツバーグ・パイレーツのルーキー級に所属し、2勝3敗の成績を残している廖任磊(ジャオ・ジェンレイ)も名を連ねる。12月1日、NPBと初対戦した試合では、クローザ―として登場。150キロ超のストレートで日本打線を完全に封じ込んだ剛腕投手だ。

 台湾は韓国同様、スポーツに関しては少数精鋭主義だ。つまりは、日本のように身の丈にあったレベルで青少年がスポーツをするというのではなく、上級の学校に進むほど、プレーする間口は狭くなる。大学レベルになると、本当のトップ選手しか競技をすることはないという。その中で選抜された選手はエリート中のエリートであり、今回のチームもプロの若手と遜色ないレベルのプレーを見せている。初めての試みは成功をおさめそうだ。

日本にもやってきた台湾の国民的ヒーロー


 そんな選抜チームを率いているのがこの人物。


 サングラスをかけているが、おわかりだろうか。日本での現役時代もその後半はふっくらしていたが、その頃よりさらに大きくなった印象。しかし、あの人懐こい表情はまったく変わることはない。

 郭李建夫。
 私たちは「かくり・たてお」と呼んでいたが、今は「クオリー・チェンフー」として、後進の育成にあたっている。1992年のバルセロナオリンピックで台湾に銀メダルをもたらした立役者として国民的ヒーローになり、翌年からは阪神タイガースに入団した、あの投手だ。

 私はこのバルセロナオリンピックの最中に台湾を初めて訪ねた。あの時、初めて観戦した台中球場の試合から宿に帰る道すがら、夜中までやっている飲食店のテレビではメダルを目指してマウンドに仁王立ちする彼の姿がよく映し出されていた。それから23年の時を経て、球場こそ変わったが、同じ台中で彼の姿を見ることに偶然ではない何かを感じる。

 日本では外国人枠の問題などもあり、6シーズンで27勝31敗19セーブと、その実力を十分に発揮できたとは言えなかった。その後、1999年から5シーズンプレーした母国・台湾では、1年目に最多勝、引退前年の2002年には最優秀救援投手のタイトルを獲得するなど、今はなき和信ホエールズ(2002年より中信ホエールズ)の主戦投手として38勝25敗37セーブの成績を残した。

 2003年に9勝6敗8セーブ、防御率3.05という成績を残しながらも引退を決断。すぐに新興の開南大学の野球部監督に就任した。そのかたわら21歳以下の代表監督も務め、昨年は地元・台湾で開かれた第1回21Uワールドカップで見事にチームを優勝に導いた。その流れを引き継いで「中華培訓」の監督を引き受けている。

郭李監督インタビュー


 通訳を引き受けてくれた台湾のプロリーグ・CPBLのスタッフに導かれ、フィールドに出ると、すぐに郭李監督を発見した。その姿を追うと、若い選手相手に対話を重視しているのだろう、常に声をかけている。彼の指導者としての姿勢を示すシーンを何回も目にした。


 このリーグは連日変則ダブルヘッダーで行われている。そのある試合では、ナイターの第2試合に備え、第1試合の終盤に球場入りした「中華培訓」の選手たちが、カメラマン席の長椅子に座って試合を観ていた。そこにやってきたのが郭李監督。空いたスペースに座ろうとすると、儒教倫理のいまだ残る台湾だけに、選手が席を離れようとしたのだが、郭李監督はそんな選手たちを笑いながら諭した。そんな気を遣わず、試合を観て、学び取れと言わんかのごとく、選手とベンチにお尻を並べて、試合を観続けたのだ。選手にとって、神に近い存在のはず。だからこそ、選手との距離を近づけようとしているのだろう。

 日本語はわかるはずだ、と言うリーグスタッフの言葉だったが、聞く方は理解できても、答えるのは難しいようで、私の質問を直接聞き、スタッフに中国語で話し、それを通訳してもらった。


――今回、ウインターリーグに大学生チームが参戦しましたが、プロ相手に手ごたえはどうですか?

郭李 うちの選手はみんな若いんだけれども、相手もプロとは言え、同じように若い選手ばかり。もちろん対戦を通じて勉強させてもらうんだけど、向こうも学ぶことはあるんじゃないかな。このリーグでお互いに勉強することは多いと思いますよ。

――台湾人のある指導者がこう言っていました。「台湾では有望選手はすぐにアメリカへ行きたがる。その多くは成功せずに帰ってくるんだけど、マイナーから戻ってくる選手は、その時にはもう使い物にならなくなっている。それなら、まずは台湾のプロ、あるいは日本でしっかりとした指導を受けてからにしたほうがいい」と。それについて郭李監督はどう思いますか?

郭李 たしかに即戦力の選手には「海外に行きたい」という選手が多いね。その気持ちはもちろんわかるんだけど、国内のプロの中には、台湾代表の選手もたくさんいるからね。僕もまずは台湾のプロに挑戦してほしいと思いますね。ここで実績を作ってからでも遅くはない。この選抜チームからも来年のCPBLのドラフトにかかる選手はたくさんいるでしょうし。

――これはちょっと聞きにくい質問なんですが、ここのところ台湾のトップ代表は、国際大会で不振ですよね。それについて、なにか課題はあるでしょうか?

郭李 国際大会の結果だけで、実力を推し量ることはできないんだけどね。この間のプレミア12で、台湾はトーナメントに進めなかったけど、日本だって優勝は当然みたいに言われていたのに、優勝できなかったでしょ(笑)。そこが国際大会の難しさなんだよ。

――では将来的には、そのプロを含めたトップ代表を率いたいとか、あるいはCPBLのチームで指揮をとってみたいという気持ちはありますか?

郭李 今は大学のチームを率いているので、それに集中しています。その先はまたその時に考えます。

 現在のところ、若い選手の育成にやりがいを感じて日々を送っているようだ。

 最後に、日本のファンにメッセージをとお願いした。笑いながら……

「ご無沙汰です」

 という短い返事が返ってきた。



文=阿佐智(あさ・さとし)
1970年生まれ。世界放浪と野球観戦を生業とするライター。「週刊ベースボール」、「読む野球」、「スポーツナビ」などに寄稿。野球記事以外の仕事も希望しているが、なぜかお声がかからない。一発当てようと、現在出版のあてのない新刊を執筆中。ブログ「阿佐智のアサスポ・ワールドベースボール」(http://www.plus-blog.sportsnavi.com/gr009041)

記事タグ
この記事が気に入ったら
お願いします
本誌情報
雑誌最新刊 野球太郎No.32 2019ドラフト直前大特集号 好評発売中
おすすめ特集
2019ドラフト指名選手一覧
2019ドラフト特集
野球太郎ストーリーズ
野球の楽しみ方が変わる!雑誌「野球太郎」の情報サイト
週刊野球太郎会員の方はコチラ
ドコモ・ソフトバンク
ご利用の方
KDDI・auスマートパス
ご利用の方