南北の北海道と沖縄は夏季大会が始まるまで、あと2週間ほど。7月に開幕するほとんどの地方大会まで、約1カ月。気の早い高校野球ファンは“夏”がくることをいまかいまかと待ちわびていることだろう。
昨年はオコエ瑠偉(関東一→楽天)や清宮幸太郎(早稲田実)の登場で、一般メディアも巻き込んで大いに盛り上がった。しかし、各地方大会が行われる前後の地方メディアがけっこう熱い報道をしているのは知られていない(そりゃ、その都道府県民へ向かっての報道なので)。高校野球といえば、その土地柄が出るものと知られているが、それぞれの地方でどのような報道を例年されているか、『野球太郎』ライターに話を聞いてみた。
……の前に、取材や撮影でいろいろな地域へ足を運ぶことがあり、比較できる編集部員としての印象を紹介したい。特に充実していると感じたのは福井新聞だ。すべての新聞を読んだわけではないが、紙面での報道はどこの地方も情報量はスゴいと思うが、福井新聞の素晴らしさはホームページにある。高校野球の話題に限らず、ほとんどのニュースが新聞と同じ内容でホームページに掲載されるのだ。しかもアクセスしやすく、とても整理されている。フェイスブックやツイッターでも頻繁に今日あった福井のニュースを告知してくれる親切さもある。
各地方紙のホームページのコンテンツはあまりそろっていない、力を入れていない(入れる必要が無い?)イメージが強い。そんな中で福井新聞のホームページの充実度を味わうと、あたかも福井県民になったかのように思える。
各地方紙の報道がアツいのだが、さすが広大な北海道はさらに地方紙が細分化され、その内容も地域密着型になっているという。北海道在住で、雑誌『北の球児たち』を発行している長壁明さんが話してくれた。
「帯広周辺は十勝毎日新聞、釧路周辺は釧路新聞、苫小牧は苫小牧民報、旭川はあさひかわ新聞、函館は函館新聞、北見は経済の伝書鳩……などがあり、選手の家族構成や監督のお人柄を紹介したり、情報の密着度は濃いと思います。
北見市を中心に発行する「経済の伝書鳩」の編集部・寒河江芳明さんは、北見から札幌の大学で野球を続ける選手を激励しようと休みの日を使って、車で5時間ほどかけて札幌へ訪れるほど。だから、卒業生や選手の保護者とも顔なじみ。気になった選手の進路を尋ねても即答してくれ、いつも助けられます。
先日まで開催されていた春の北海道大会では、各ローカル新聞社の記者さんもですが、地元のガリバー紙・北海道新聞社(大会主催者でもある)も運動部の記者さんに加えて、各支社(函館支社、小樽支社、旭川支社、苫小牧支社など)からの記者さんも勢ぞろい。記者席も熱気に包まれました。
また各スポーツ紙も「道内版」があり高校野球のニュースも充実しています。サンケイスポーツは北海道版ではなく、「道新スポーツ」(サンケイスポーツの提携による自社発行)という地元スポーツ紙として親しまれているほどで、私の目には各スポーツ紙の記者さん同士が非常に良好な関係に映ります。北海道民のおおらかさは取材現場でも息づいているのではないでしょうか」
どの地域でも地方紙推しがある中、地方紙に対抗しようと全国紙の地方版を作っているのが、古くからの“野球どころ”として知られる四国だ。
「香川の四国新聞、徳島新聞、愛媛新聞、高知新聞はいずれも個々の主張を持っていますが、朝日新聞や毎日新聞の高校野球担当の方々もスゴい熱量があります。
たとえば、今年の徳島新聞高校野球メイン担当は藤畠慶祐記者。この方は、2010年センバツに21世紀枠で出場して、神宮大会王者の大垣日大に大健闘した川島の主将でもありました。他にも愛媛新聞で長らく高校野球にかかわった宇和上翼記者は、松山東高出身で立教大では神宮のマウンドにも立っている方だったりします。
また、数年前には朝日新聞高知総局が全校のエピソードを連載しましたし、今年は毎日新聞高松支局がtwitter展開(@takamatsu_mai )で全校紹介を続行中です。
特に昨年は『高校野球100年』ということもあり、朝日新聞は連載で100年間に散りばめられた秘話を紹介。3月に『高校野球 四国100年物語』という本になりました。
このような報道の切磋琢磨があることも四国が『野球どころ』であるゆえんだと思いますし、もちろん私もこのような尊敬できる皆さんと日々勝負する気概でやっています」(四国在住ライター・寺下友徳氏)
ここまで一般紙、地方紙のことばかりで、スポーツ新聞の話題はゼロだ。スポーツのことならスポーツ新聞だろ、と思われるかもしれないが、規模数や記者数を踏まえると、地域ごとに事細かな情報を取材していくのは難しいようだ。
そんな中、スポーツ新聞の県内版が充実している、と教えてくれたのが、『静岡高校野球』を手掛ける栗山司さんだ。
「スポーツニッポン、日刊スポーツ、報知新聞が県内版を持ち、夏の大会前になると、毎日数校ずつ取り上げ、集合写真つきで全校紹介を行います。注目選手の紹介はもちろん、その学校ならではエピソードが盛り込まれていますね。多い時は一面すべてを使って、学校紹介という日もあります。記者は約3カ月の間に、全112校を一気に周るので、1日、2校をはしごすることがあると聞きます。また、3誌で同じネタが被らないように苦労されているようです。この全校紹介が始めると、『いよいよ夏の高校野球の季節になったな』と感じます」
先日、浜松湖南の小岩選手は10人きょうだいの長男だ、そして、音楽に関する名前の子が多い、という日刊スポーツの県内版の記事が話題になりましたよね。もし、読者の中で、スポーツ紙の県内版が充実している地域が他にもあることを知っていたら、編集部に教えてほしいです。
もし、読者の中で、スポーツ紙の県内版が充実している地域を知っていたら、編集部に教えてほしいです。
いろいろ話を聞く中で、おじいさんが一人で作っている新聞があるという。
「中四国随一の野球専門紙『ベースボール岡山』というものがあります。かなり高齢のおじいさんが補聴器をつけて、腰を曲げて取材されておられました。インターネットで検索してもヒットしないものですが、岡山では有名です。最近はお目にかからないと思っていたら、ご高齢のため、約1年半前に辞められたようです。名前は藤原都与志さん。関係者に年齢を聞いてみたところ、不明とのことでしたが、おそらく80歳以上ではないかということでした」(熊本在住で『野球太郎』では中国・九州を担当するアストロさん)
このような方々もいるから、日本の高校野球の人気はますます上がっていくのでしょうね。藤原さん、ありがとうございます! お疲れ様でした。
来週は各地方で有名な、自慢したい高校野球解説者や指導者を紹介します!
構成=野球太郎編集部