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file#024 西勇輝(投手・オリックス)の場合

『野球太郎』ライターの方々が注目選手のアマチュア時代を紹介していく形式に変わった『俺はあいつを知ってるぜっ!』
今回の担当ライターは東海地区を駆けまわる尾関雄一朗さんに書いていただきました!
田島慎二(東海学園大→中日)山内壮馬(名城大→中日)に引き続き紹介して頂くのは、昨シーズン最終戦、とある選手の引退試合に、とんでもない偉業を達成した、この投手です!


監督室の壁に貼られた「反省文」

 今月22日に幕を開けたセンバツで菰野高校(三重)が大会3日目に登場した。意外にも、菰野にとって春は今回が初出場。夏は2005年・2008年と2度出場していて、このうち08年のエースこそ、現在オリックスで活躍している西勇輝だ。
さて、菰野の監督室にお邪魔すると、入口の横の壁に「反省文」なるものが貼ってある。少々日に焼けて古くなった、ルーズリーフいっぱいに書かれた反省文が複数枚並んでいる。何名かの選手が1人1枚提出したものだが、このうちのひとつが高校生当時に書かれた西の“懺悔”だ。内容を読むと、チームで禁止されている「眉毛をいじる」行為に手を染めてしまったことへの反省と、副キャプテンとして今後自覚をもって取り組んでいく決意が綴られていた。戸田直光監督は「みなさんに見てもらえるところに(貼っている)」とニヤリ。彼の高校時代に、そんなことがあったとは…。




肩周りが柔らかく、腕の巻きつくフォーム

 西は高校時代からフォームがよかった。肩周りが柔らかく、テークバックで肩が大きく回ってヒジが後方に入り、そこから体に巻きつくように腕を振る。勢いのあるスリークォーターのフォームで、捕手のミットにパチンと収まるストレートを繰り出した。
全体のバランスが乱れないから動きがスムーズで、ボールにうまく力を伝えられていた。左足をきれいに踏み出せて力のロスがない。ダイナミックだが粗くない、バネの利いた投げ方は、資質の高さの表れだった。

最後の夏はピリッとせずも、甲子園へ

 しかし3年夏はどこか今ひとつな印象もあった。相手に有無を言わせない快投劇(たとえば完封勝利のような)がなかったからだ。対戦相手との力量差が顕著な場合は体力温存のためリリーフに回っていたので、派手な結果と無縁だったとも考えられるが、少なくとも筆者が見た試合では、ドラフト候補の割に案外な内容が多かった。
 たとえば準決勝の皇學館高戦。7回コールド3失点で完投したものの、2回表には二死から三塁打を浴びた。3回表、5回表はいずれも無死から9番打者、1番打者に連打を浴びるという、まったく同じパターンでピンチを招くことに。このうち2回表・5回表は味方のエラーも絡んで失点した。また7番打者には4盗塁を許している。
 同様にその3日前の3回戦・川越高戦では、4回まで無安打に抑えていたのに、5回裏に3連打で無死満塁とされると、守備の乱れもあり2失点。甲子園では橋本到(現巨人)擁する仙台育英(宮城)に13被安打4失点と苦渋をなめたが、その予兆は県大会のときからあったのだ。




打たせて取る投球術と制球力

 ただし、調子が上がらなくても甲子園へチームを導いたのは、打たせて取る投球術と、コントロールに秀でていたからこそ。これがある投手は負けない。前述の準決勝でも、7イニングで四死球は一つも与えていない。低めに球を集められるから内野ゴロが多くなり、アウトは全て二塁ゴロというイニングもあったほどだ。粘りや修正する力を備えていた。
 変化球も高水準だった。スライダーは横に曲がり、フォーク、シュート気味のツーシームも器用に操った。145キロ前後のストレートももちろん光っていたが、速球以外にも長所をたくさん備えていたのである。一定の完成度のもとに、単なる「素材型」とは異なる意味での「伸びシロ」を兼ね備えていたのが西だった。
打たせて取る投球術や変化球に対するセンスは、より高いレベルのプロ球界で存分に生きた。昨季ノーヒットノーランを達成した際も四球は1つだけで、内野ゴロの山を築いたのが好例。インコースを突くコントロールや、「顔はニコニコしていても内心は燃えていた」(菰野・戸田監督)という生来のマウンド度胸もプロで大きな武器となった。




「投手王国・菰野」の立役者

 自身の活躍で、「菰野=投手が育つ」というイメージを広く植えつけた西の功績は大きい。後輩に与えた影響も計り知れず、西の2年後にプロ入りした関啓扶(中日)も、偉大な先輩の姿から多くを学んだと話していた。高校時代、眉毛をいじった罰として書かされた反省文が今も監督室の壁に貼られているのは冒頭で述べたとおりだ。その一方で、対面(といめん)の壁には、シーズンオフに西が母校を訪ねるたびに記すサイン色紙が、高らかに何枚も飾られている。




文=尾関 雄一朗(おぜき・ゆういちろう)/1984年生まれ、岐阜県出身。新聞記者を経て、現在は東海圏の高校、大学、社会人を精力的に取材。昨年は濱田達郎投手(愛工大名電高→中日)らを熱心に追い続けた。

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